迎撃の狼煙
この部隊の主力である3人は、3方からの敵襲を迎撃するため、闇の中へと消えて行った。
残された僕達は、彼女達が討ち洩らした敵を掃討するため、更に警戒を強める。
絶対にアルテミシア王女の乗る馬車には、近付けさせてはならない。
遠く闇の向こうから、激しい戦闘音が聞こえてくる。
その時ふと、違和感のようなものが頭を過る。
敵が僕達の戦力を把握していたとして、3方向から3人の主力を分断すると、攻め手に不安が残るのではないか?
盗賊とはいえ、この付近では名の知れた盗賊団を壊滅に追いやった僕達に、30人程度ずつの兵力をぶつけたところで、突破できる可能性は低い。
ならば、先の3方向からの襲撃は単なる陽動であり、主力のいなくなった僕達の部隊に、陽動部隊以上の兵力を当ててくるに違いない。
「聞いて下さい!」
僕は近衛兵の傍に駆け寄り、鬼気迫る形相で叫んだ。
「どうしました?」
「3方からの襲撃は囮です。」
「囮か…確かにその可能性も考えられる。しかし、敵の本体はどこから来るのだ?」
「こちらです!」
そう言って僕は背にしている川を指差した。
「まさか…いや、可能性は高い!」
「はい。先日の雨で増水しているとはいえ、渡れない程ではありません。僕達の裏をかくという意味では最も効果的です。」
「すぐに王女殿下の馬車を街道側へ移動しろ!」
僕の考えを肯定してくれた近衛兵達は、迅速に行動を開始する。
その時、魔方陣が反応し、僕の考えが正しかった事を証明した。
「敵襲!やはり東側、川の向こうです!」
「了解した!2名は王女殿下の護衛を、残り8名は迎撃に向かう!」
「待って下さい、僕に考えがあります!」
「あのアイリス様のお弟子さんの作戦だ、聞かせて頂きたい。」
「ありがとうございます!」
僕は近衛兵達を集め、簡潔に作戦を説明した。
「…なるほど、これならば大人数を相手に優位に戦えるうえ、リスクも少ない。だが、君も危険に晒してしまう。」
「はい、覚悟は出来ています!」
「…了承した。ただし、決して無理をなさるな!」
近衛兵達は僕の作戦を採用し、迅速に配置に付く。
ザックスと1名の近衛兵は、アルテミシア王女の搭乗する馬車の守備に、残る9名の近衛兵と僕は前衛で敵を迎え討つ。
先の3方向からの襲撃は陽動である事に間違いない。
それに、僕達の主力である3人が敗走する事は考えにくい。
ならば後方から挟撃される可能性は無いだろう。
そういった理由から、前衛で討ち洩らした敵を排除するための保険として、ザックスと近衛兵の一人を守備に割いた。
川の上流に当たる北側に僕、残る近衛兵は川の下流に向かって一直線に5メートル間隔で川岸に布陣する。
先日の雷雨で増水した川の幅はおよそ20メートル。
その対岸に敵の軍勢が群れを成し、威嚇と挑発の叫び声を上げている。
敵は各々、防御力よりも機動性を優先した簡素な防具を身に纏い、有効距離の短い武器を手にしている。
装備にも陣形にもまとまりが無く、こちらの部隊とは対照的だ。
敵の数はおよそ100人、対するこちらの前衛部隊は僕を含めて10人。
10倍の敵を相手に、僕達の戦いの火蓋は切って落とされようとしていた――
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