待ちわびた敵襲
今夜の野営は、街道に並走する川沿いの開けた場所に設営されている。
木の骨組みに布を掛けただけの簡素なテントが王女の馬車を囲むように乱立し、王女は馬車の中で、兵士達はテントの中で仮眠を取っている。
周囲には深い森が続いており、敵の急襲があった場合は後手に回る可能性がある。
そこで、僕の探知魔法を周囲100メートルの範囲で施術している。
この魔法は、指定範囲に進入した金属の反応を捕え、中央に描かれた魔方陣にその方位を表示させるというものだ。
僕が見張りをしている間は、全く反応がなかった。
このまま何も起きないのだろうか。
何も起きないに越した事はないのだが、それではこの行軍の意味自体を失ってしまう。
僕達は敵をおびき寄せるために、行軍しているのだから。
月の傾きから、おおよその時間を観測していた僕は、ミリアムに見張り交代の時間が来た事を告げる。
彼女は無言で頷き、テントから次の見張り番となる近衛兵の二人を連れて来た。
「ご苦労様です、何か異常はありませんでしたか?」
近衛兵は、大きな欠伸を一つ吐き出し、僕に尋ねてきた。
「いえ、静かなものです。少し夜鳥の声が煩い程度ですね。」
僕は皮肉を込めて、乾いた笑いを浮かべる。
「夜鳥ですか…。」
そう言って彼は耳を澄まし、注意深く周囲を見回している。
確かに僕も違和感を覚える。
初秋に入り、森の木々も色付き始めたこの季節、これ程の夜鳥の囀りを聞いた事があっただろうか。
繁殖期に当たる春先から初夏にかけてならば、納得ができる。
しかしこの時期に、これ程の数の夜鳥が周囲に集まっているというのは、不自然過ぎる。
その時、地面に描かれた魔方陣が仄かに輝きを発し、西からの反応を告げる。
「どうやら、お客さんが来たみたいですね。」
僕は西側の森を凝視しながら近衛兵に告げた。
ミリアムと二人の近衛兵は、静かにそして速やかに、仮眠を取っている全員を叩き起こし、戦闘態勢に入る。
「数は30程度…」
地面に耳を押し当て、足音を聞いていたミリアムが、ミラルダに敵の数を告げる。
「たった30か、ずいぶんと舐められたものだな。私が行こう。ミリアム、アルテミシア殿下を頼んだ。」
無言で頷くミリアムを背に、ミラルダは暗い森の中へと消えて行った。
「大丈夫でしょうか?」
馬車の中から不安そうな声で、アルテミシア王女が問いかけてきた。
「ミラ様なら大丈夫、心配ない。」
自信に満ちた表情で答えるミリアム。
しかしその時、再び魔方陣が反応を示した。
「今度は北側からです!」
南北に延びる街道の先、王都へ続く北側の街道に人影が蠢いている。
「やはり30程度か…。今度は私が行こう。」
そう言って今度は師匠が、街道の先に消えて行く。
「主力の分断…もしかすると、その可能性も考えられますね…。」
なるべくアルテミシア王女が戦闘に巻き込まれる事を避けたい僕達にとって、最も嫌な作戦で仕掛けて来る事が考えられる。
もし次に南側から敵が迫って来た場合、その可能性も濃厚になってくる。
文字通り、川を背に背水の陣を取っている僕達にとって、西南北からの包囲攻撃を受けてしまうと、アルテミシア王女を危険に晒してしまう恐れがある。
こちらの兵力から考えると、敵の早期発見と主力による各個撃破という戦い方をするしかないだろう。
そして僕の予想通り、魔方陣が南からの敵襲を告げた。
「ここは僕とザックスで迎撃に向かいます!」
「いや、私が行く。」
「しかし、それではアルテミシア王女の守りが手薄になってしまいます。」
「問題無い。30程度すぐに片付けて戻る。」
確かに僕達だけでは30人を相手に勝てる保証はない。
それに、こちらには10人もの近衛兵が残っている。
師匠、そしてミラルダも30人程度の相手なら、そう時間もかからないだろう。
「わかりました、気を付けて。」
「ああ、アル様を頼んだ。」
そう言ってミリアムは南の街道の先へ消えて行く。
そして、主力を失った僕達に最悪の事態が待ち受けていた――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




