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レコード・アクセス  作者: 藤崎彰
座れない指定席
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エピローグ

「それにしても凄かったよなあ。あねさん、完全正解じゃんか」


 翌日、停電は四人が寝静まってから復旧した様で、朝食を取った後にドラマの見逃し配信をチェックしたのだが、事件の真相は完全に要海の推理通りだった。


「しかも主人公が当てられなかった動機まで当ててしまったんですから、いわば、お姉さまの完全勝利でもありますわね」


 代わる代わるに要海の推理力を称える燐音と涼歌。


「ああ、メイドさんに膝枕されながら褒められまくるって、ダメになりそう」


 当の完全回答を成し遂げた名探偵は、メイド服を纏った燐音に膝枕をされて締まりのない顔を晒していた。さらには同じく揃いのメイド服を着た涼歌によって、扇で仰がれており、さながらメイドの奉仕を受けている様だった。


「ところで、どうして静波までこの格好をしているのでしょう?」


 チームとしては要海側にいたはずの静波だったが、何故か彼女も昨日と同様にメイドの格好をさせられていた。


「だって静波、あねさんがこんな能力持ちだって知ってて話さなかっただろ? 一方的に有利な情報を伏せていた罰だよ」


 要海の推理力が発覚し、幾らかの押し問答の後に、彼女のこれまでの活躍が発覚してしまったのだった。


「めちゃくちゃです」


 口ではそういった物の、どこか燐音の言葉に強く反論できなかった。


「大丈夫です。静波さんの魅力が遺憾なく発揮されていますわ」


「何が大丈夫なんですか」


 今の部分的に窮屈な格好を褒められても、嬉しがっていいものなのかいまいち判然としない静波だった。


「まあまあ。そうだ、今度は静波さんがお姉さまにご奉仕してくださいな」


 涼歌が持っていた扇を静波に手渡す。


「もはや何でもありですね」


「しーちゃん、お願い」


 扇を不服そうに見つめつつ、要海からのリクエストを受け、静波の中にある種の諦めの感情が浮かんでくるのだった。


「……まあ、いいですけど」


 要海の近くに寄り、未だ燐音の膝枕を享受している彼女を扇で仰ぐ。


「ああ、楽園ってここにあったんだなあ……」


 見ている側が憎たらしくなる位の嬉しそうな顔をする要海。色々と納得のいかない部分もあったが、要海のその笑顔を見ていると、不思議とそれはそれで悪くないなと静波は思ってしまうのだった。




「はい、この調子でいければ、あと一時間はかかりませんわ」


「どうしてすうちゃんが先生みたいになってるの……?」


 要海は一通りの『ご奉仕』を受けた後、涼歌との会話中に宿題が出されている事を話してしまい、「宿題は早めに片付けるべきです」と主張する彼女の監視の元、要海の家庭学習が始まってしまったのだ。


「宿題なんてあとでもいいじゃなーい」


 シャープペンの動きを止め、せめてもの抵抗を試みる要海。だが、涼歌は一切の手心を加えてくれる様子がなかった。


「それでいつも忘れるパターンですよね? 静波さんからお聞きしています」


「しーちゃーん」


 静波に恨みがましい視線を送る要海。


「わたくしは静波さんと違って甘くありませんので、悪しからず」


 さながら鬼教官の様相を呈している涼歌が、笑顔で要海に宣言する。


「さあ、あと少しです。頑張ってください、お姉さま」


 こんな状況でなければ、天使のものにしか見えない笑顔で、涼歌は見えない鞭を要海に対して振るい続ける。


「あねさん、宿題が終わったら、このケーキオレが食べさせてあげるからさ、がんばだぜ!」


「うう……がんばる」


 丈から貰ったケーキを燐音に食べさせて貰うご褒美をゴール地点に定め、要海は何とかテーブルの上のノートに意識を向けた。


「それじゃあ燐音さん。要海さんを待ってる間にリーフティーの淹れ方を教えますので、しっかり学んでいってください」


 静波の用意したリーフティーの用具一式を見た燐音が、淹れ方を教えて欲しいと申し出てきたのだ。


「おう! オレの紅茶でみんなの舌をしびれさせてやるぜ!」


 物騒な事を呟く燐音だったが、その瞳に光が宿る様は、彼女の真剣な時のそれだった。彼女は今、新しい知識を得ることで自分の世界を広げようとしている。何となく、静波にはそう思えるのだった。


 自分の世界は、涼歌に出会い、燐音に出会い、要海に出会い、そしてそれ以外にも多くの人たちに出会い、その度に大きく広がってきた。一人では決して見る事のない景色を、みんなのおかげでいくつも見てきた。自分が変わったと評されたのは、きっとそれが理由だろうと静波は思う。だがそれは、みんなも同じだろうとも考える。


(というより、同じであって欲しいだけ……ですかね)


 我ながら都合のいい妄想だと内心で苦笑しながら、静波はこうも考える。


 自分の世界は、どこまで広がるのだろう、と。

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