窓際社員
そうして部署に戻ると朝の会社に入る時のように憂鬱さがまた新鮮になり、誰にも聞かれないため息をつくと自席に向かった。そして休憩前に済ませた仕事の書類を持って窓際を見た、そうして書類を運ぼうとして書類を落としてしまった、落ちていく書類を見て慌てる様子もなく、散らばっていく書類をただ見て、他の社員も書類が落ちるのを確認したがすぐに目をそむけていった。その書類を憂鬱そうに拾っていると、横から手が伸びてきて一緒に拾う者が現れた、その手には指輪がしてあり佐竹のものであった。
「大丈夫か?」
佐竹はそう言いながら拾った書類を男に渡した。男は何とも言わず、俯いていた頭を更に少し深くして受け取る。こんなところを見られて惨めに思いながらまた拾い続けようとすると、見かねた教育係をしている女性社員がサッサと拾って、
「ありがとうございます。」
と佐竹に礼を言う。一層惨めに思い、逆上して奥歯を噛み締めていると、
「佐竹くん、ちょっと来てくれ」
そう佐竹は男の上司に呼ばれて行ってしまい、女性社員も自席に向かい書類だけが置かれていた。その書類を持ち憤然とまた窓際を見た、そこには体裁を保つ上で欠かせない存在がいる、その存在があるからこそ男はまだ自分の居場所にこだわっているといっても過言ではない。その部署の一番端に行き、そのデスクにわざとらしく叩き付ける様に書類を置いた。そこに座る男性社員は矢張さんという名前の社員であり男より年長者なのだが、男は矢張を見下す。すると座っていた矢張は生気の無い目で男を見上げて静かに書類を受け取る。自分を見上げたのを見るとその社員のパソコンの画面を一瞥して自席に着いた。矢張はいわゆる窓際社員であり、仕事も出来ない上に努力もしない、男が最も憎むべきと思う存在である。先程パソコンの画面を覗いて見たが大手の通販サイトが映っていた、こんな事は日常茶飯事であり他には小説なんかを読んでいた事もある。いや、読んでいたと言うのは語弊がある。通販サイトや小説を見ている事はこの部署の人間なら当然の事であり、もっともこれは矢張のパソコンを覗いては仕事をしていない事を確認し、憤りを感じると共に安心を得ようとする男だけが知っている事だが、小説が読み進められることはない。ずっと同じタイトルが映っており、稀にタイトルが変わっている事があるが何かの気まぐれに違いない。男は通販サイトを見ていた矢張に逆上した感情を向け、キーボードを叩く指に力が入り、パソコン画面を睨み付けて今までにあった矢張のあらゆるサボりやミスを回想しては幾つもの罵声を考えていた。
すると肩を叩く者が現れ、見ると佐竹が愛嬌よく口角を上げて隣に立っている。
「遅くまで働いてるんだってな、根詰めてもいい結果にはならないぞ」
佐竹がそう言うと、男は上司から説得でも頼まれたのだろうかと思い疑念の目で返す。すると佐竹は次のように述べる。
「昼はどこで食ってるんだ?」
なんと昼休みを使ってまで説得しにくるとはやはり只者ではない。ここで嘘をついても上司が協力しているなら意味がないと踏んで正直に答えた。
「ここで食べているよ」
男がぼそぼそと答える。
男は毎日変わらず自席で菓子パンを食べている。
「わかった、今日は一緒に食べような」
そう言って佐竹は部署を後にした。
男は久々に誰かと食事をするのも悪くないと納得した。何事も頭の切り替えが肝心である。
昼休みに入ると席に男の姿は無かった。




