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流星  作者: 九条 九重


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3/5

憤り、八つ当たり

朝方布団に包まりアラームに邪魔され、起きたままうなされていた。そんなに耳障りならいっそのことアラームを切ってしまえば良いものを、社会人とは窮屈なものだ。アラームを切ってしまえばもう起きてはこられないだろう事は目に見えている、だからといってそう易々と起きる事ができないのは皆さんご存知の通りだろう。かれこれ二十分ほどうなされて、ようやく布団から出てアラームを切った。そしてまた単調なる朝の支度が始まる。起きるとまずインスタントコーヒーを淹れ、一口飲むと洗面台に向かい顔を洗う。こうしてもまだ寝ぼけた眼が鏡に映っている、判然としない黒目と萎れた皺は平常のものなので仕方がない、だが、好き勝手に伸びる寝癖と髭がそのままなのは些か疑問である。その寝癖のまま洗面台を後にし、コーヒーをまた飲んで服を着替える。冷蔵庫から菓子パンを二つ出して、薄汚れた手提げに入れた。すると支度はもう終わりの様で、コーヒーは半分ほど残したままタバコを咥え、最後にまた洗面台の前に立ち、寝癖を掻いて顎を撫でる、気にしているのかいないのか判然としないまま部屋を出た。寒そうに手をポケットに入れながら、カラスの羽音を聞いて、カラスが群がるゴミ捨て場を一瞥して車に乗り込んだ。


会社に着き、俯いて自席に着くと仕事を始めた。これは最近になっての事だが、少し離れたデスクを見て、憂鬱そうに仕事をしている。そのデスクは入社して三四年目の女性社員の席である。この部署には四月から新入社員が入り、その教育係をしているのがその女性社員である。新入社員は入って間もない為に至らない点が多いのは仕方のないこと、するとその教育係である女性社員の負担が増えるのも必然である。ならば女性社員の仕事が通常通りとはいかず、簡単なものになるのも道理であるが、その簡単なものとはまさに男のやっている仕事である。新入社員の教育と並行して行われる自分の仕事とは果たして自分がやる必要があるのか、自分自身がそもそも不必要なのではないか。そんな事を考えて憂鬱になると共に、新入社員のミスした時には我関せずと仕事に向かい、心では冷笑している。


そろそろ仕事が一段落ついた頃に午前の休憩時間になった。休憩時間はなるべく人のいない決まった喫煙所まで少し歩き、そこで一服してまた自分の部署に戻る、それが男の習慣であったがその日は場所を変えていた。男は慣れない場所で人に押されながら壁に向かって煙を吐いている、数人のグループが話をしており絶えず雑音がして不愉快に思っているのかタバコを持つ手が震えている。だが本当に憤りを感じているのは雑音ではない、この憤りは半ばこの場所に来てしまった事の八つ当たりの様なものである。平常通りの決まった喫煙所には自分の席がある、ずっと通い続けて手にしたこの男の体裁を保つ為の物でもある。もしそこに他の社員が座っていたら、近くでその席をただ見つめて無言の圧を掛ける、すると大体は居心地が悪くなってその席を男に譲る。それでもどかなければそのまま圧を掛け続けて、次の休憩時間には急いでその席に着いて我が物顔で座り、暗にここには座るなと示す。もし派遣社員ならば顎で指示してどかし憤然と座る、それでも譲らないなら社員と同じ事をした。そうして手にした席に今日は一人の男性社員が座っていた、平常なら圧を掛けるところだが一目見て敗走してきた、その男性社員というのは佐竹という名前で、男にとって憂鬱の種である。前述の通り男は自分が置いて行かれた事を憂鬱に感じているが、佐竹はその代表的な存在である。佐竹は元同僚であり、仕事においては正確であり期限はしっかりと守る、とにかく人当たりが良く報連相などは欠かさない涼しい男である。そのため上司からの信頼は厚く、佐竹と親しい間柄であると言えば、多少なりとも佐竹を知る者なら好感を持たれるうえ、奢った態度も取らないのだから下の者からの人気も高い、この男とは全く釣り合わない同期の社員である。そんな佐竹は昇進して男の上司と同じ立場にある、そんな相手に圧を掛ける度胸も無く、逃げてきて雑音の隅にいる。それにも耐えかねたのか、タバコを半分程度残して吸い殻を捨てると、その喫煙所を後にした。

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