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一方的に離縁を言い渡されたので、ほぼ一人で経営を任されていた貿易業からもお暇することにしました  作者: 秋名はる


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第20話 浮気証拠の手紙

屋敷に戻ったのは、夜の十一時を過ぎた頃だった。


玄関を入ると、廊下にウェステリアが立っていた。


外套も脱がずに、ルーレンスの帰りを待っていたのだろう。

その顔に、心配の色が隠しきれなかった。


「おかえりなさい。無事でしたか」


「なんとか」


ルーレンスは、外套を使用人に預けながら答えた。


「思いの外、うまくいったようだ」


「本当ですか……いえ、今夜は疲れたでしょう。詳しい話は明日でも——」


「いや、今伝えなければ」


ルーレンスは、書斎に向かいながら言った。


「エヴァンスとルイーゼが密通していた証拠の手紙の存在を暴露した。

 エヴァンスの執務室と、ルイーゼの邸宅。証拠になりうるはずだ」


ウェステリアは、その言葉を聞いて目を細めた。


「……そうですか」


「ルイーゼは、思っていた以上に話してくれたよ」


書斎に入り、椅子に座ったルーレンスは、ようやく少し表情を緩めた。

普段は見せない、くたびれたような顔だった。


ウェステリアは、使用人が運んできた茶器を取って、ルーレンスの前に置いた。

少し間をおいてから、二人は報告を始めた。


「ルイーゼはどのような様子でしたか」


ルーレンスは少し間を置いた。


「……思っていたより、私に興味をしめしてくれたようだ

 正直、やりにくかったが、収穫はあった」


ルーレンスはそういいながら、苦虫を噛んだような顔をする。

確かに、彼女はまるでルーレンスを誘惑しているような態度を頻繁に取っていた。


ウェステリアは、その言葉の意味を理解して、少し笑みをこぼした。


「……ご苦労をおかけしました」


「気にしないで」


ルーレンスはカップを受け取りながら言った。


「成果はそれ以上だった」


それから、静かに続けた。


「ルイーゼという女は、エヴァンスへの執着が深い一方で、自分の利益になると判断すれば簡単に別の方向を向く。用心して、慎重に事に当たらなければ」


ウェステリアは頷いた。


「問題は、手紙の入手ですね」


「ルイーゼの邸宅への潜入はハロルドにいかせよう。彼女の居場所は掴めている。

問題はエヴァンスの方だ」


二人は、しばらく黙って向かい合った。


「証拠を確実にするために、そうほうから手紙を押収したい。

だが、かの屋敷はルイーゼのものよりも警備が厳しいだろう。

使用人もいるし、忍び込むことは難しいかも知れない」



「では、私にいかせてください」


ややあって、ウェステリアが答えた。


「君が?」


「あの屋敷のことを、誰よりも詳しく知っているのは私です

私は、あの屋敷に澄んでいたのですから」


「しかし、それでは」


ルーレンスは眉を潜めたが、ウェステリアは、静かに言った。


「私が行きます」


ルーレンスは、すぐには答えなかった。

しかし、ウェステリアの目をしばらく見たあと、やがて深く息を吸ってから、頷いた。


「わかった、だがしかし君の安全を確保するように準備を整えなければ。

一人では行かせられない」


「わかりました」


二人はお互いに見つめ合った。その目には決意の色が滲んでいた。


窓の外では、夜風が木々を揺らしていた。

蝋燭の炎が、二人の顔を静かに照らし続けた。



** *



潜入の日は、夜会から三日後に決めた。


三日間、ウェステリアはルーレンスとハロルドとともに、細かい段取りを詰めた。


エヴァンスが夜に外出する曜日のパターン、屋敷の使用人が少なくなる時間帯、裏口の鍵の位置


——ハロルドがこれまでの調査で把握していた情報が、ここで生きた。


「エヴァンスは木曜の夜、決まってルイーゼの邸宅に向かいます」


ハロルドが言った。


「その間、屋敷に残る使用人は最低限です。夜の十時を過ぎれば、ほとんどが自室に下がっている」


「裏口の鍵は」


「以前と変わらなければ、勝手口の脇の植木鉢の下に合鍵があるはずです。奥様がそこに置いておられたものを、エヴァンスはご存知なかったはずですので」


ウェステリアは頷いた。


そうだ。あの合鍵は、ウェステリアが商会の急用の時のために、自分で用意したものだ。エヴァンスには話していなかった。


側にいたルーレンスが、真剣な顔で言った。


「万が一の時のために、私が近くで待機する。何かあれば、すぐに動けるように」


「わかりました」


「何かあれば合図を送って知らせて」


言われてウェステリアは少し考えた。


「執務室の窓に明かりが見えたら、問題ありません。明かりが消えたままなら、何か起きていると思ってください」


ルーレンスは、それで承知した。


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