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一方的に離縁を言い渡されたので、ほぼ一人で経営を任されていた貿易業からもお暇することにしました  作者: 秋名はる


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第17話 浮気の証拠探し

ある夜、ルーレンスの書斎でウェステリアはハロルドからの最新報告を読み返していた。


エヴァンスとルイーゼの接触回数は増えている。しかし証拠として使えるものは、まだ出てきていない。このままでは時間ばかりかかってしまう。


「焦る気持ちはわかるが」


ルーレンスが、向かいの椅子から言った。


「慌てて動いてエヴァンスに気づかれれば、証拠を隠滅される」


「わかっています。でも——」


「ウェステリア」


ルーレンスが、静かに遮った。


「実は、私に一つ提案があるんだ」


「提案?」


ウェステリアは顔を上げた。


ルーレンスは腕を組み、少し考えるような間を置いてから続けた。


「ルイーゼという女について、ハロルドの調査でいくつかのことがわかっていることがある。

上流社会への憧れが強い。裕福な男性に対して警戒を緩める傾向がある。そして、自分の立場を自慢したがる性格だ」


「ええ、そうですね」


それは、同じようにハロルドから報告を受けていたウェステリアも知り及んでいたことだった。


「であれば——ルイーゼの方から自分で喋らせることができるかもしれない。

証拠を探し回るより、彼女の口から直接聞き出す方が確実だと思う」


ウェステリアは、ルーレンスの言葉の先を読もうとした。


「それはそうですが、一体どうやって」


今まで、ルイーゼは精巧にエヴァンスとの関係を隠していて、なかなか尻尾を出さない。警戒心の強い彼女が、簡単に浮気の証拠を喋るようには思えなかった。


「私に考えがある。

近々、エヴァンスの邸宅がある町の近くで、小規模な慈善活動チャリティを開く予定なんだ。

招待客の中に、さりげなく二人を含めるつもりだ。そこで、私が身分を隠してルイーゼに接近し、彼女に直接話を引き出す」


ウェステリアは、しばらく黙った。


「……あなた自身が、ルイーゼに接触するということですか」

 

「私が適任だろう。

私はルイーゼと面識はないし、何より慈善会の主催者だ。見知らぬ若い男として近づけば、ルイーゼは警戒しないでしょう。それに、必要があればハロルドとは以前から顔なじみですから、連携も取りやすい」


「しかし——」


ウェステリアは、言葉を選んだ。


「あなたに、そのような役を担わせるのは——危険すぎます」


今まで何かとウェステリアのことを助けてくれたルーレンスに対して、これ以上迷惑をかけられないと思った。


「君の力になりたいんだ。

放っておけば、エヴァンスは更に大胆な行動に出るかも。

彼をああして焚き付けてしまったのは、私の責任でもある」


ルーレンスは、静かに遮った。


「しかし__」


「これが最善の手だと、ハロルドとも判断したんだ。

君は、我が商会の大切な従業員だ。そして、私の幼馴染でもある。遠慮は無用です」


ウェステリアは、その言葉の重さをゆっくりと受け取った。


どうしてこの人は、私にここまで親切にしてくれるのだろうか。

戸惑いと同時に、彼になら見返りなど求めずに頼ってよいのだという、確かな優しさを感じ取って、ウェステリアはこころが温かくなった。


「わかりました。」


「では、準備を始めましょう」



***



数日の後、ルーレンスは近隣の貴族たちへ招待状を配布して回った。


表向きは、事業の慈善活動ということにしておき、招待状は匿名で、「某氏による私的な音楽会」という体裁にした。


各界の要人たちや、裕福な家の証人たちなどを大勢招いた。


夜会は3日後の晩に控えていた。


ルーレンスの人脈を活かして、エヴァンスがよく使うレストランから程近い場所にある、こぢんまりとした貸し会場を手配した。


普段は音楽家や詩人たちが集まる、芸術的な雰囲気の場所だ。


エヴァンスとルイーゼへの招待状は、ハロルドを通じてそれとなく届けてもらった。


良家の方々が集まる席だという噂を添えると、ルイーゼが強く参加を希望したとの報告が入った。


「思った通りだ」


ハロルドが、淡々と言った。


「あの娘は、上流社会への興味が強い。断るはずがない」


当日、ルーレンスは丁寧に変装した。侯爵家の紋章のない、質素だが上品な装いに整え、偽名を使うことにした。


 

「ローラン・ド・モレ。南部の貿易商人の息子ということにします」


出発前、ルーレンスは書斎でウェステリアに言った。


「財産はあるが爵位はない。ルイーゼにとって、ちょうど食指が動く立場でしょう」


 

「うまく演じられますか」


彼が柄にもなく身分を偽り、変装して他人に接触するというので、ウェステリアは少し心配していた。


「心配いらないよ

そもそも、私が長く暮らしていた戦地、国境付近の町では、私の身分など平民と同様だった。むしろ、こういったことには慣れっこなんだ」


「そうですか

でもどうか……無理をしないでください」


「君ほどではないよ」


ルーレンスが珍しく冗談めかして言ったので、ウェステリアは思わず目を丸くした。そしてルーレンスも小さく笑った。


「気をつけて」


ウェステリアは言った。

馬車が門を出ていくのを、ウェステリアは屋敷の玄関先から見送った。


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