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一方的に離縁を言い渡されたので、ほぼ一人で経営を任されていた貿易業からもお暇することにしました  作者: 秋名はる


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第13話 会社買収作戦

その時、応接室の扉が静かにノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは、父の使用人だった。


「お嬢様、ウィンチェスター侯爵様がお越しになっております。お嬢様にご用があるとのことで」


ウェステリアは、一瞬驚いたが、すぐに頷いた。


「通してください」



***



ルーレンスは応接室に入ってくると、集まった従業員たちを見て、驚きに目を見開いた。


状況を、瞬時に察したようだった。


「お取り込み中すまない。

大したようではないんだ、また出直すよ」


「いいえ」


ウェステリアは立ち上がった。


「ちょうどよかった。ルーレンス、少し聞いていただけますか」


ウェステリアは一瞬でも迷ったが、意を決してルーレンスに全てを話すことに決めた。


ウェステリアはかいつまんで、今し方トーマスから聞いた話をルーレンスに伝えた。


商会の現状、従業員たちのボイコット、エヴァンスによる解雇の脅し。


ルーレンスは腕を組んで、黙って聞いていた。

 

すべてを聞き終えると、かれはしばらく沈黙して、しばらく考え込んでいる様子だった。




やがて、ルーレンスは口を開いた。


「なるほど、話はわかりました」


そして、周囲に集まっている従業員たちを見渡す。


「一つ提案があります。

私が、その商会を買い取るのはどうでしょう」



** *



ルーレンスの言葉が、応接室に静かに落ちた。


しばらく、誰も口を開かなかった。


最初に反応したのはトーマスだった。目を見開いて、ルーレンスとウェステリアを交互に見た。ジャックとサイモンは、ただ呆気に取られたように口を半開きにしていた。


「……どういう意味ですか」


沈黙を破るように、ウェステリアが慎重に問い返した。


「そのままの意味です」


ルーレンスは、落ち着いた口調で続けた。


「私がハミルトン商会を、エヴァンス殿から正式に買い取りましょう。

土地も、船も、設備も、そしてここにいる従業員の皆さんも含めて、私の事業として引き継ぐということです」


「それは…願ってもないことですが、

 旦那様、よろしいのですか?」


トーマスが半信半疑といった様子で口を開いた。


「もちろん。ちょうど父から受け継いだ資産の運用方法を考えていたところだったのです。

 貿易業は、最近業績が伸びている分野です。投資する機会を得られるのは、こちらとしても願ってもないこと」


ルーレンスは満足げに頷いた。


「しかし、エヴァンス様がそれに応じるかどうか——」


「それは簡単だ。応じざるを得ない状況を作ればいい」


ルーレンスは静かに、しかし確信を持った口ぶりで言った。


「今、商会は従業員のボイコットによって業務が停止している。このまま放置すれば、取引先との契約が次々と破綻し、商会の信用は地に落ちる。エヴァンス殿には、売却以外の選択肢がなくなる」


部屋の中に、静かな緊張が漂った。



「ただし」 ルーレンスは続けた。


「一つ条件がある」


彼の視線が、ウェステリアに向いた。


「この買収が成立したら、ウェステリア、あなたにもぜひ事業に参画してもらいたい。

私が商会を買い取ったとして、実務を動かせる人間がいなければ意味がない。

君のような優秀な人材の参画なしでは、この話は成立しないとおもう」


ルーレンスは、そう言って意味ありげな視線を投げかける。


ウェステリアは、その言葉の重さをゆっくりと受け止めた。


——もう一度、あの仕事に戻る。


自分が八年間かけて育ててきた商会に、再び携わることができる。それはウェステリアにとって、とても魅力的なことに思えた。


「……私を彼らの貿易業に関わらせていただけるのですか?」


気づけば、そんな言葉が口から出ていた。

ルーレンスは、わずかに眉を上げた。


 「あの商会を実質的に動かしてきたのはきみだ。名義はエヴァンスのものでも、君なしでは経営は立ち行かなかっただろう。

わたしは、そんな君の能力を見込んでいる。手を貸してもらえたら嬉しい」


「もちろん、相応の報酬は弾むよ」


ルーレンスが、静かに断言した。


部屋の中が、しんと静まり返った。

すると、トーマスが、そっと口を開いた。



「奥様。私どもも、同じ気持ちです。奥様と一緒に働きたい。それだけが、私どもの望みです」


マーガレットが頷いた。ピートが、太い腕を組んだまま深く頷いた。ジャックとサイモンが、真剣な目でウェステリアを見た。


ウェステリアは、それぞれの顔を見渡した。


胸の奥に、じわりと温かいものが広がった。


それと同時に、何か固いものが、すとんと腑に落ちる感覚があった。


——そうか。私は、ここに戻ってきていいのだ。


ずっと、どこかで思っていた。自分は追い出された人間だ。だから、もうあの仕事には関われないのだと、半ば諦めかけていた。


でもあの仕事を作り上げてきたのは、他でもないウェステリア自身だと言ってくれた。


今まで、自分の存在意義なんて考えたこともなかったわたしは、改めて皆が自分を必要としてくれていたことに感謝した。


「……わかりました」


ウェステリアは、深く息を吸ってから言った。


「お引き受けします。ルーレンス、よろしくお願いします」


ルーレンスは、静かに頷いた。その目に、確かな安堵の色が浮かんだ。




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