そこまでは知らんけど
放課後。
吹奏楽部の練習。
楠木七菜、ホルン。
立花奈緒、チューバ。
ほかの金管楽器担当も、部屋にいる。
「楠木さん、最近調子いい?」
「え?」
「ホルン。なんか前よりいい気がする」
同じホルン担当の同級生。
名前はまだない。
「そう? どの辺り?」
「どこがどう、というか……全体的に?」
楠木七菜、こういうとき面倒な一面、出る。
全体的に良いと言われても、わからない。
褒められている気がしない。
でも、わざわざ雰囲気悪くする必要も、ない。
「そっか」
その程度。
「息が続くようになってると思うよ、前より」
横から、立花奈緒。
スマホを操作しながら、言う。
最近、立花奈緒。
自分のチューバの演奏を撮影している。
明らかに、楠木七菜の影響。
しかも、上手くなってると楠木七菜は思う。
自分の演奏の動画観るの、結構恥ずかしい。
でも、欠点がすごくよくわかる。
目に見える欠点を修正したら、めっちゃ上手くなる。
今の立花奈緒のチューバ、多分部内で一番上手い。
さすが、立花奈緒。
「だから音が最後まで綺麗に抜けてると思う」
「なるほど」
それならわかる。
楠木七菜、ご満悦。
「歌の練習のおかげかな?」
「そこまでは知らんけど」
違う。
そこは。
そうだね、歌の練習のおかげだね。
そう言うところ。
そうしたら、奈緒も一緒に歌やらない? って言える。
つれない友人である。多分言っても。
私は歌はいいかな、とか言いそう。
いや、言う。
立花奈緒、そういうやつ。
もう一度ホルンを吹いてみる。
動画撮影は、しない。
撮影は、歌。
最近スマホの容量、厳しい。
毎日歌の動画増えてる。
新しい容量の大きいスマホ、親に却下された。
「どう?」
「うん、やっぱり吹き終わりが良いんじゃない?」
上達。
嬉しい。
今年全国大会には行った。
楽器も、結構上手い。
歌に比べたら、そこそこ。
でもホルンを演奏するの大好き。
上手くなる、嬉しい。
その日は普通に吹奏楽の練習をして。
練習が終わったら先輩たちと一緒に歌の練習をして。
夕方に帰った。
歌の練習は。
根を詰めすぎないように。
軽くだった。
だから。
この日は、一日二十六時間。




