↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/31

ハードル下げて来る





 お祭り。


 夜、提灯、屋台。


 楠木七菜と立花奈緒が一緒に歩いている。


 この手のお祭りは夏のイメージが強い。


 でも、秋祭りも普通にある。


 青葉野は春にも夏にも秋にも冬にもお祭り、ある。


 問題ない。


 なぜなら、その方が都合が良いから。


 晩秋の夜は肌寒いので、二人とも浴衣は着ていない。


 普通の服装。


 唐揚げ串買った。


 かぶりつく。


 大変にジューシーで美味しい。


 屋台の食べ物。


 美味しく感じる。


 実際には。


 そんなにいいものは使っていないらしい。


 でも、美味しい。


 雰囲気補正、ある。


「さあ、ここからはカラオケ大会です!」


 お祭りのステージ。明るい。


 司会の人、いかにもお祭りっぽい格好をしている。


 頭、ねじり鉢巻き。


 いかにも。


「七菜、歌ってくれば?」


 奈緒が言う。


 七菜、まんざらでもない。


 歌うのは好き。


 でも今は、まだ唐揚げが残っている。


「もうちょっと考えようかな。少し見て行こうよ」


「そうだね」


 カラオケ大会、特に点数を出したり審査したりは、しない。


 お祭り、それ大事。


 楽しいのがいちばん。


 歌唱一人目、ステージに上がる。


 見覚えある人。


 というか。


「小早川先輩じゃん」


「ほんとだ」


 どうかしているくらい歌が上手い先輩。


 もうこの後の展開が予想できる。


「青葉野高校三年生?」


「はい」


「部活は何かやってるの?」


「吹奏楽でクラリネットをやっています」


「おお、青葉野高校の吹奏楽と言えば、全国大会に行ってたよね。あなたも吹いたのかな?」


「はい、一応」


「なるほど! 歌の方は自信のほどは!?」


 きた、と楠木七菜と立花奈緒は思った。


「歌は、結構上手いです」


 でた、と楠木七菜と立花奈緒は思った。


 それから曲が流れ、歌が始まる。


 お祭りの音響、さすがにそこまで丁寧ではない。


 一言でいえば、雑。


 でも、関係ない。


 めちゃうま。


 あ。


 ちょっとだけハウリング。


 これは先輩のせいでは、ない。


 声量抑えてる。ちょっともったいない。


 音も声も突き抜けるのに、それが残る感覚。


 どうしても理解できない。


 やっぱり、どうかしているくらい上手い。


 曲が終わった。


 小早川千紘、礼。


「…………え?」


 司会の人。背後に宇宙が広がっている。


 でも進行止められない。


「えっと……青葉野高校の吹奏楽部って」


「はい」


「歌、練習するの?」


「いえ、そんなことは」


「結構、上手い?」


「結構上手いと思います」


「いや、結構ってレベルじゃないでしょ!」


 ツッコミが入り、会場から笑い。


 場が再起動した感じ、する。


「でも」


「でも?」


「私より上手い人、いるので」


「え?」


「次に歌う人、私より上手いですよ」


「え?」


 そんなことを言う小早川千紘。


 おおー、と素直などよめきが観客から漏れている。


 これ、ハードル上げすぎでは。


 でも、これだけハードル上げれば。


 背景に宇宙が広がる猫、防げるかもしれない。


 という訳で次にステージに上がったのは。


 やっぱり、榊原美冬。


「あなたも、青葉野高校?」


「はい。同じ三年生で、同じ吹奏楽部です」


「歌が、上手い」


「そうですね、上手いと思います」


 すごい自信。


 謙遜なし。


 でも実際上手いから仕方ない。


 司会の人もさすがに動揺は少ない。


「先ほどの彼女の後だから、ハードル上がってるよ?」


「頑張ります」


 曲が流れて、歌が乗る。


 小早川千紘の歌は、柔らかいイメージ。


 榊原美冬の歌、すごい綺麗。


 輪郭がハッキリしている。


 ただ。


 やっぱりハウリング気にしてる感じする。


 ちょっと抑え気味。


「ちょっと抑えてる感じだね」


 隣の立花奈緒に小声で言う。


「え?」


「榊原先輩。抑えて歌ってる」


「これで?」


「うん」


 立花奈緒が不思議そうな顔。


 どう聴いても、抑えてる。


 お祭り会場、どんどん人増える。


 増えるというか、人が流れてない。


 みんな立ち止まってる。


 曲が終わり、一礼。


 司会の人。


 宇宙背負ってない。


 ハードル上げまくった効果、出てる。


「いやあ……本当に上手いね」


「ありがとうございます」


 当たり障りなく、榊原美冬退場。


 でも、次の人が出てこない。


 それはそう。


 あの歌の次はちょっと遠慮したい。


 普通の感覚。


 仕方ない。


「ハードル下げて来る」


「え?」


「歌ってくる」


「いや、七菜が歌ってもハードル下がらないでしょ……」


「あの二人に比べたら、ね」


「それはそう」


 参加受付。


 ステージ。


 また青葉野高校吹奏楽部か、といった反応。


 しっかり歌う。


「青葉野高校の吹奏楽部ってみんな歌上手いの?」


「私は、結構上手い方だと思います。先輩二人には負けますけど」




 結局。



 ハードル下げた効果。




 あんまり、ない。




 最終的に、酔っ払いのおじさんが下手な歌を披露して。




 そこからお祭りカラオケ大会は大盛況だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。