本当に歌上手いの?
児童合唱コンクール。
学校単位ではなく。
地域単位。
歌が好きな小学生。
集まって、頑張って練習。
いい成績をとりたい。
そんなコンクール。
公民館、いつものカラオケ教室。
新田先生に、児童の保護者が。
「一度、見ていただけませんか?」
「僕が?」
「はい」
少し、考える。
小学生、合唱。
得意分野とは少し異なる。
でも、音楽。
「いいですよ」
笑う。
新田先生。
昭和から。
音楽で飯を。
食っている。
業界に顔も広い。
それでいて。
地域の行事にも積極的。
なかなかの人格者。
公民館で行われる練習。
見る。
子供たち、歌う。
なかなか上手い。
歌が好きなのが、わかる。
でも。
合唱。
声、揃っていない。
発声が強い子。
弱い子、色々いる。
「なるほどねえ」
これは、難しい。
一人見て、アドバイス。
次。
全体を見て、アドバイス。
「……」
ちょっと、良くなった。
自分でも、できる。
けど。
もっと、いい人がいる。
思い出す。
高校生。
いつもの四人。
ひとりは、歌の専門外だけど。
保護者のひとりに。
「今度」
「はい?」
「助っ人、連れてきてもいいですか?」
後日。
公民館の扉が開いて。
「こんにちは」
四人。
榊原美冬、小早川千紘。
楠木七菜、立花奈緒。
綺麗。
優しそう。
小学生がざわつく。
「高校生?」
楠木七菜が笑って。
「高校生だよ」
榊原美冬。
「今日はよろしくね」
小早川千紘。
「よろしくお願いします」
立花奈緒。
「私はお手伝い。みんな、よろしくね」
小学生たち。
元気よく。
「よろしくおねがいしまーす!」
相手が小学生。
全員、普段より表情が柔らかい。
新田先生が前に出る。
「今日は、この四人にも手伝ってもらいます」
男の子。
質問。
「歌、上手いの?」
「結構上手いよ」
新田先生が言って。
四人が笑う。
保護者たち。
微笑ましいものを見る。
表情。
そして練習開始。
まず、歌う。
子供たち。
聴く。
「うん」
榊原美冬が頷いて。
考えて。
「みんな、歌は好き?」
「好き!」
「好きー!」
榊原美冬が笑う。
「やっぱり」
「やっぱり?」
「私も好きだから、わかるの」
「おー!!」
楠木七菜。
「みんな、結構上手いね」
男の子。
「結構?」
「あ」
立花奈緒が笑いながらフォロー。
「このお姉ちゃんは、これで褒めてるの」
「えー!?」
楠木七菜、苦笑。
「本当、褒めてる褒めてる」
小早川千紘が。
子供を何人か集めている。
「ここ」
楽譜。
「みんな、息を吸う場所が違うでしょう?」
子供を見る。
そこだけ。
軽く歌ってみる。
呼吸、確認。
「あ」
「ほんとだ」
小早川千紘。
微笑んで。
「だから」
一節だけ歌う。
「こんなふうに、ここで一緒に吸ってみようか」
「はーい!」
榊原美冬。
また別の子供たち。
「歌はとっても上手」
「だから、言葉をもっと聞かせて欲しいな」
「ことば?」
「そう、歌詞。読んでみようか」
歌わずに。
歌詞を読んで。
「大きく歌うの?」
「うーん、ちょっと違うかな」
榊原美冬。
考える。
「大事に?」
「そう」
女の子。
ちょっとわかってないかも。
「じゃあ、ここ読んでみて」
女の子が読む。
「うん」
榊原美冬が笑う。
「上手。その言葉を、聞いている人に渡してあげて」
「…………うん!」
小学生には。
ちょっと。
難しかったかも。
楠木七菜。
また別の小学生。
何人かで歌う。
「もう一回」
もう一回歌う。
「うん。二回目の方がいい」
男の子。
「なんで?」
「……」
考える。
でもちょっと。
困る。
「みんなで歌ってる感じする」
「おおー!」
なんか。
伝わった。
新田先生。
少し離れた場所。
立花奈緒が隣。
「今日は来てくれてありがとう」
「いえ」
立花奈緒が言ってから。
「でも、三人で良かったんじゃないですか?」
間。
「うーん、歌の指導だけなら」
「そうかもしれないんだけど」
ちょっと考える。
「なんとなく、君たちって」
「四人組って感じがするんだよね」
立花奈緒、少し驚く。
「四人組ですか?」
「そう、先輩二人組と、後輩二人組」
「そう見えますか?」
「うん。楠木さんと立花さんは、いいコンビだと思うよ」
立花奈緒。
新田先生の思わぬ言葉に。
口元。
ゆるゆる。
「ただ、こうしてるのが暇だったら申し訳ない」
練習風景を見ながら。
新田先生が言う。
立花奈緒も。
口元を引き締めて、前を向く。
「いえ」
「私も、四人でいるのが」
「好きですから」
こうして。
見ているのも。
暇ではないし。
寂しくもない。
休憩。
子供たち。
四人を囲む。
「お姉ちゃんたち、吹奏楽部?」
「そうだよー」
と、楠木七菜。
「何吹いてるの?」
と、上級生の女の子。
「ホルン」
「オーボエ」
「クラリネット」
「チューバだよ」
おおー、と歓声。
「歌う部活じゃないの?」
「違うよ」
「なんでー?」
四人とも笑って。
榊原美冬が答える。
「友達と演奏するのが楽しいから」
おおー! わかるー!
と、歓声。
ちょっとだけ騒がしい。
下級生の女の子。
「じゃあ、なんで歌上手いの?」
「練習してるから」
「いっぱい?」
「そう、いっぱい練習してる」
「毎日?」
「毎日」
話を聞いていた男の子。
少し考えて。
「お姉ちゃん」
楠木七菜に聞く。
「うん?」
「本当に歌上手いの?」
「……」
周り、子供。
見渡して。
「上手いよ」
「どれくらい?」
楠木七菜、思わず笑って。
「結構上手いよ」
少し離れた場所にいた新田先生。
腕を組む。
スタンバイ。
男の子。
「ほんとー?」
「ほんと」
別の女の子が。
榊原美冬を指して。
「このお姉ちゃんも?」
「うん」
「みんな?」
立花奈緒が一歩下がって。
「私は普通」
ちょっと生意気な男の子。
「じゃあ、歌って!」
他の子供たちも続く。
「歌ってー!」
「聞きたーい!」
楠木七菜。
ちょっとたじたじ。
「どうします?」
小早川千紘と榊原美冬が目を合わせて。
「いいんじゃない?」
そして。
「何を歌うの?」
女の子。
「これ!」
いま、練習している曲。
榊原美冬が楽譜を見て。
立花奈緒を見て。
立花奈緒は顔の前で手を小さく振って。
「三人で?」
「三人で!」
楠木七菜。
「やります?」
榊原美冬。
「一回だけね」
「やったー!!」
子供たち大騒ぎ。
保護者たち。
それを見ながら笑っている。
うちの子の。
お手本。
喜ぶし。
一石二鳥。
そんなふうに思ってる。
新田先生は壁に背を付ける。
腕、組んだまま。
三人が前に出て。
楽譜確認。
榊原美冬。
「ここ」
小早川千紘。
「うん、それでいいと思う」
「あ、じゃあ私がこっち?」
と、楠木七菜。
「そうね」
「七菜ちゃん、そこは聴いて合わせてね」
「はい」
立花奈緒、少し笑顔。
もう始まってる。
三人が立って。
子供たちが前に座る。
目がきらきら。
新田先生が壁に背をつけて。
立花奈緒がその横にいる。
保護者たちは子供たちの後ろ。
「じゃあ」
榊原美冬。
「いくわよ」
息。
吸って。
歌う。
子供。
「…………」
保護者。
「…………」
三人の声。
ひとつ。
でも。
三色。
榊原美冬が、中心。
小早川千紘が、柔らかく包むように。
楠木七菜が聴いて、入る。
子供たち、動かない。
目が丸い。
さっきまで。
自分たちが、歌っていた。
同じ歌。
でも。
違う。
言葉が、聞こえる。
息が揃う。
声が重なる。
声はそこまで。
大きくないのに。
遠くまで届く。
室内。
跳ね返ってきても、消えない。
保護者の一人。
口がちょっと開く。
隣も同じ。
その隣も同じ。
そのまた隣も同じ。
全員。
背後に宇宙が広がる猫みたいな。
表情。
新田先生。
ご満悦。
歌が終わる。
静か。
一秒。
二秒。
「…………」
楠木七菜。
ちょっと首を傾げて。
「どう?」
歌を聴かせてとせがんだ男の子。
立つ。
「すっげええええええええええええええ!!」
子供たち。
大爆発。
「すごい!」
「もう一回!」
「お姉ちゃんたちすごい!」
「なんで!?」
「どうやったの!?」
楠木七菜、笑う。
小早川千紘、笑う。
榊原美冬は少し耳を押さえて。
「うるさいわね」
でも、笑ってる。
保護者の一人が。
新田先生に歩み寄り。
「先生」
「はい」
「この子たち」
三人を見て。
「誰なんですか」
新田先生は。
少し考えて。
「歌が上手い高校生です」
「それはわかります」
隣の立花奈緒、思わず吹き出す。
子供たちはまだ騒ぐ。
「もう一回!」
「もう一回!」
榊原美冬。
「一回だけって言ったでしょう」
「えー!」
小早川千紘。
「じゃあ」
しゃがむ。
子供目線。
「今度はみんなでやってみようか」
「え?」
「いまの、聴いたでしょう?」
「うん!」
「すごかった!」
じゃあ。
楽譜を広げる。
「どこが違ったと思う?」
子供たち。
考える。
女の子が手を上げる。
「息?」
「うん」
別の子。
「声が揃ってた!」
「そう」
また別の女の子。
「言葉が聞こえた!」
榊原美冬を見る。
笑って。
「そうね」
そして、一歩前。
「じゃあ」
子供たちを見て。
「今度はみんなが、同じようにやってみて」
「はーい!」
歌う。
さっきより、少しだけ。
揃う。
楠木七菜、笑う。
新田先生。
腕組み継続中。
保護者たち。
まだもうちょっと宇宙猫。
練習が続いて。
練習が終わる。
子供たち。
三人を囲んで。
「またきて!」
「つぎも来て!」
「お願い先生!」
楠木七菜。
「先生になってる」
小早川千紘。
「いいんじゃない?」
そして、榊原美冬。
「予定が合ったらね」
「絶対だよ!」
「絶対とは言ってないわ」
それも、榊原美冬。
歌をせがんだ男の子が。
楠木七菜の服の裾を引く。
「先生!」
「なに?」
「俺も、結構上手くなれる?」
楠木七菜。
少し止まって。
笑う。
「なれるよ?」
「ほんと?」
少し考えてから。
「ちゃんと練習したらね」
「する!」
「じゃあ、大丈夫」
頭を撫でて。
「頑張ってね」
新田先生と。
保護者。
腕を組まず。
ただ、眩しそうに。
笑った。




