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楽しそうだなと思ったのよ






 本番当日。


 隣町。


 文化交流会。


 会場。


 大きくはない。


 でも、小さくもなくて。


 結構。


 観客入ってる。


 その中には。


 音楽が好きな。


 おじさん、おばさん。


 おじいさん、おばあさん。


 お兄さん、お姉さん。


 たくさんいる。





 本番直前。


 舞台袖。


 楠木七菜、いる。


 緊張。


 なんか。


 初めて指揮棒を振った。


 前回より。


「なんで」


 立花奈緒、隣。


「なにが?」


「前より緊張する」


「わかることが増えたからとか?」


 楠木七菜、横を見て。


「なんか、名言っぽい」


「どこが?」


 少し笑う。


「ありがと」




 榊原美冬。オーボエ。


 確認。


 視線感じる。


 気づく。


 楠木七菜。


「なに?」


「いえ」


 間。


「お願いします」


「ええ」


 他。


 小早川千紘。クラリネット。


 隣には、二年生もクラリネット。


 三年生の先輩。トランペット。


 チューバ。ホルン。


 木管、金管、打楽器。


 準備が進む。




 舞台準備が完了して。


 呼ばれる。


 楠木七菜が歩いて。


 ステージ中央。


 前。


 客席に。


 礼。


 振り返って。


 青葉野高校吹奏楽部。


 大丈夫。


 本番のための。


 練習。


 やってきたから。


 指揮棒を。


 振った。


 音が入る。


 今回は。


 前回の反省も。


 ある。


 練習と本番。


 響きが違う。


 最初の数節で。


 調整。


 問題ない。


 チューバ。


 ちゃんと。


 十一歳三か月の響き。


 問題ない。


 トランペット。


 遠くまで届いている。


 問題ない。


 クラリネット。


 フルート。


 ホルン。


 問題ない。


 オーボエ。


 榊原美冬。


 来る。


 あの場所。


 楠木七菜の視線。


 少し動く。


 榊原美冬が。


 吹く。


 綺麗。


 最高に綺麗。


 でも。


 前には出ない。


 クラリネット。


 小早川千紘の音に。


 渡る。


 楠木七菜。


 聴く。


 そのまま。


 指揮棒を振る。


 問題ない。


 とてもいい。


 口の端が上がる。




 最後。


 指揮棒が止まる。


 残響。


 残響。


 消える。


 静寂。


 拍手。


 楠木七菜。


 止まって。


 前。


 部員。


 みんな、いる。


 笑って。


 振り返って。


 客席に。


 礼。


 上半身を起こして。


 どやっ。


 舞台袖に退場して。


 順次撤収。


 青葉野高校吹奏楽部の。


 出番は終わった。




 舞台袖。


 楠木七菜。


 息を大きく吐き。


 次いで、思いっきり伸び。


「終わったあ」


「お疲れ様」


 最初に声をかけてきた。


 もちろん立花奈緒。


「疲れたー」


「毎回言ってる」


「本当だもん」


「知ってる」


 二年生の。


 クラリネット担当。来る。


「楠木さん」


「なに?」


「今日は」


 少し笑って。


「止めなかったね」


 楠木七菜。


 一瞬止まって。


「本番だからね」


「そっか。止めたかった?」


 考えて。


「練習だったら」


 大真面目に。


「止めたかも」


 同級生は笑って。


「やっぱり」


 お疲れ様を言って。


 片づけに戻る。


 三年生。


 トランペット担当が来て。


「お疲れ様」


「お疲れ様です」


「今日の演奏、結構良かったよ」


「はい、私もそう思います」


「指揮も、良かった」


「ありがとうございます」


 笑って。


「先輩のトランペットも、めっちゃ良かったです」


 まだ手に持っていたトランペットを。


 少し見て。


「たくさん注文を受けた甲斐があった」


 満足そうに。


 片づけに戻る。


 榊原美冬も。


 オーボエを。


 片づけている。


 楠木七菜の視線が。


 向く。


 今日。


 榊原美冬が吹いた。


 自分が。


 目立たなくていい、と。


 そう言ったところ。


 その通りに。


 吹いてくれた。


 楠木七菜。


 少しうれしい。


 誇らしい。


 でも。


 まだ。


 知らない。


 気づいてない。


 片づけも。


 そこそこ落ち着いて。


 会場裏。


 搬入口。


 楠木七菜は。


 水を飲んでいる。


 榊原美冬は。


 オーボエのケースを持って。


 小早川千紘と。


 話をしている。


「……」


 なにか。


 引っかかるような。


 先輩二人が。


 搬出待ちの荷物置き場へ。


 歩き始める。


 二人とも。


 楽器のケースを持ってて。


 二人が並んで歩くの。


 いつも通り。


 でもなんか。


 違う。


 ような。


「あ」


 楠木七菜。


 小走りで。


 二人のところに。


「美冬先輩」


「なに?」


 立ち止まる。


 おかしい。


 え、なんで?


 混乱。


 オーボエ、榊原美冬。


 なんだけど。


 全国大会後は。


 歌。


「なによ」


「美冬先輩」


 二回目。


「なんで」


「ここにいるんですか?」


「……」


 沈黙。


 小早川千紘。微笑み。


 いつの間にか隣にいた。


 立花奈緒。


「聞き方」


「あ」


 いまのはちょっと。


 確かに。


 聞き方が。


 悪かった。


「そうじゃなくて」


 言葉、探す。


 待つ。


 最近、ずっとこう。


「文化交流会ですよね」


「そうね」


「美冬先輩、歌の練習ありますよね」


「あるわよ」


「こっち出たら、その分、減りますよね」


「減ったわね」


「じゃあ」


 驚き顔。


「なんで?」


 榊原美冬。


 視線を。


 隣の小早川千紘に一瞬向けて。


 楠木七菜に向けて。


「別に」


「別に?」


「あなたの指揮で」


 楠木七菜、止まる。


「演奏してみるのも」


 間。


「楽しそうだなと思ったのよ」


「……それ、だけ?」


「それだけ」


 間。


 間。


「なに?」


「……」


 吹奏楽部の。


 楽器が上手い先輩で。


 ふとしたことで。


 歌がどうかしているくらい。


 上手いと知って。


 色々。


 教えてくれて。


 尊敬。


 大好き。


 だから。


 口元。


 ゆるゆる。


「嬉しそう」


 立花奈緒が言って。


「うん」


 楠木七菜は、本当に。


「すごく、嬉しい」


「そう」


 楠木七菜。


 榊原美冬が持っている。


 オーボエのケースを見て。


「私、練習で」


 少し、恥ずかしい。


「美冬先輩に、目立たなくていいって」


「言ったわね」


「ごめんなさい」


「なんでまた謝るの?」


「いや、やっぱり、すごいこと言ったなと」


「そう?」


「そうですよ」


 榊原美冬が少し考えて。


「私の音が邪魔なら、引かせればいいし」


「欲しいなら、出させればいい」


「今回は、邪魔だった」


「私は指揮のことはよくわからないけど」


「七菜がそう判断したなら」


「それでいいんじゃない?」


「……はい」


「それに、ちゃんとわかったわよ」


「なにが?」


「変わった後だけど。どういう音にしたかったか」


 少し。


 泣きそう。


 嬉しいのもあるし。


 ほっとしたのもある。


 伝わってた。


 ほんの少しだけ後ろ。


 立花奈緒と、小早川千紘が。


 並んで歩いている。


「美冬」


 小早川千紘が声をかけて。


 榊原美冬が歩きながら。


 ちょっと振り返る。


「楽しかった?」


 聞く。


 榊原美冬。


 立ち止まる。


 隣の楠木七菜も。


 立ち止まる。


 少し笑って。


「まあね」


 楠木七菜。


「本当ですか?」


「嘘をついてどうなるのよ」


 楠木七菜。


 超嬉しい。


「じゃあ」


 少し、考えて。


「またやります?」


「歌の練習がしたいわ」


 みんな笑って。


「ですよね」


「七菜は?」


「え?」


「また指揮。するの?」


 少し。


 考えて。


 難しくて、大変だった。


 面倒でもあったけど。


 楽しかった。


 でも。


「ホルン吹きたいです」


 また、みんなが笑う。


「そう」


「まあ、機会があったら、ということで」


 榊原美冬も。


 柔らかく笑って。


「じゃあ、機会があったら」


 間。


「私も、また出てもいいわ」



 楠木七菜。


 青葉野高校吹奏楽部。


 二年生。


 担当楽器はホルン。


 たまに。


 指揮もする。


 榊原美冬の。




 三番目くらいには。




 なった。




 かも、しれない。







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