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私たちよりちゃんと音をわかっているもの





 本番前日。


 最後の練習。


 楠木七菜。


 前に立って指揮棒を振る。


 止める。


「すいません、今のところもう一回」


 曲。


 流れて。


 止める。


「ホルン」


 自分のいないホルン。


 やっぱり少し寂しい。


「そこ、もう少しだけ——」


 説明。


 吹く。


「はい、それでお願いします」


 また、最初から。


 振る。


 音が変わっている。


 楠木七菜。


 笑顔。


 気持ちいい。




 休憩。




 部員たち、座る。


 水分補給。


 なかなかの疲労。




 クラリネット担当。


 二年生。


 隣を見る。


 立花奈緒。


「ねえ」


「なに?」


「楠木さんって」


 少し考えて。


「前からあんな感じだった?」


「あんな感じって?」


「指揮」


「前回の文化交流会でもやってたよ」


「それは知ってる」


 知ってるんだけど。


「なんでわかるんだろう?」


「なにが?」


「ここ変えたら、良くなるって」


 小早川千紘、傍に座っている。


「楠木さん、今日だけでも結構止めたよね」


「止めたね」


 二人。


 小早川千紘に。


「先輩は、わかります?」


「ええと。演奏?」


「そうです。演奏のここを変えれば良くなるって」


 小早川千紘は少し考えて。


「全部はわからないかな」


「先輩でもですか」


「うん」


 微笑んで。


「変わったら、わかるんだけどね」


「そう!」


 クラリネットの後輩。


「そうなんですよ!」


 少し声が大きい。


「さっきよりは今の方がいいとか」


「それはわかるの」


「でも、変える前に」


「ここを変えたら良くなるとかって」


「わかんなくない?」


 立花奈緒。


「そうだね」


「でも、七菜だし」


 小早川千紘も笑って同意。


「そうだね、七菜ちゃんだし」


「どういうことなの」


「なんか……慣れてきた」


「なにそれ」


 そこに。


 榊原美冬と。


 トランペットの三年生。


「それがわかるから、指揮してるんじゃない」


 たしかに。


 そのとおり。


 そのとおりではあるんだけど。


「先輩にもガンガン注文出すし」


 トランペットの先輩が笑う。


「多分、あたしが一番注文受けてるよ」


「私は目立つなって言われた」


 嫌な感じは。


 全然しない。


「先輩たちも指示には納得してる感じですか」


「変えて、悪くなったと思ったら何か言ったと思うけど」


 トランペットの先輩。


「そうね、悪くなってたら私も言うわ」


 榊原美冬。


 そして。


「私も、七菜ちゃんの指示に納得してるよ」


 小早川千紘。


 クラリネット担当。


 三年生。


 前部長。


 楽器がめちゃくちゃ上手い。


 指導も上手い。


 しかも優しい。


 青葉野高校吹奏楽部。


 全国大会出場の。


 原動力のひとり。


 尊敬する先輩。


 その人が。


「だって、七菜ちゃんの方が」


「私たちよりちゃんと」


「音をわかっているもの」


 楠木七菜を、そんなふうに言った。





 隣町。


 文化交流会は。




 もう、明日。








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