十歳が十二歳になるくらい
練習初日。
二十数名が集まる。
楠木七菜が前に。
指揮棒を持つ。
「……」
メンバーを見る。
前回、指揮棒を初めて持った。
どうやって振るのか。
全然わからなかった。
今回は少しはわかる。
そこから、始められる。
立花奈緒を見る。チューバ。
小早川千紘を見る。クラリネット。
榊原美冬を見る。オーボエ。
三人とも参加。
少し、うれしい。
「お願いします」
挨拶。
部員も挨拶を返す。
「お願いします」
練習開始。
指揮棒を振る。
前回より。
棒が動く。
左手も動く。
一回目からそれなりに。
間が空いたのに。
結構身体が覚えているもの。
演奏を見渡す余裕。
少しだけ、ある。
ホルン。
自分がいない。
少し寂しい。
でも。
聴く。
曲が進む。
止める。
「すいません」
部員が楠木七菜を見る。
楽譜を確認。
「ここ、もう一回お願いします」
戻る。
振って、始めて、止める。
「……」
少し考える。
「クラリネット、もう少し」
言葉を探す。
「前に出てもらっていいですか?」
小早川千紘たちが楽器を構えて、吹く。
「はい、そんな感じです」
もう一度。
振って、始めて、止める。
「トランペット」
前回も参加した先輩。
「はい」
「ここ、もう少し。……遠くまで」
「遠く?」
「はい。大きくじゃなくて」
先輩。
少し考えて。
吹く。
「あ、それです」
「わかった」
立花奈緒、それを見て。
少し笑う。
演奏が続く。
止まる。
「もう一回」
変更を指示して、再開。
「そこも」
再開。
止まる。
「すいません」
指示して再開して。
また止めて。
「今のところ、もう一回いいですか?」
休憩中。
立花奈緒が水を飲む。
楠木七菜がやってくる。
「どう?」
「なにが?」
「指揮」
立花奈緒。
少し考えて。
「上手くなってる」
楠木七菜。
緩みそうになった口元を引き締めて。
「本当?」
「棒は」
「……棒は?」
立花奈緒、笑う。
「注文が増えた」
「……」
「前より面倒くさい」
「ええー」
「褒めてるよ」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんなんだ」
榊原美冬が通りかかる。
「美冬先輩」
声をかけたのは立花奈緒。
「なに?」
「どうです?」
榊原美冬。
立花奈緒と楠木七菜を見渡して。
「なにが?」
「七菜の指揮」
間。
「私は前回を知らないから比較はできないけど」
間。
「指揮棒は下手ね」
「ですか……」
これでも結構。
上手くなった。
でも。
カテゴリ的には、まだ下手。
「でも」
「指示は的確だと思うわ」
「変えたところは良くなってたし」
「良いんじゃない?」
楠木七菜。
ちょっとうれしい。
「あとは」
「はい」
「指示がもうちょっとわかりやすいと良いんじゃない?」
「……はい」
それも、自覚ある。
こうなって欲しい。
音が。
頭の中にはあっても。
上手く言葉にできない。
「なかなか難しいです」
「じゃあ練習すれば?」
「します」
榊原美冬が去る。
立花奈緒が笑う。
「美冬先輩らしい」
「そうだね」
二人。
笑う。
数日練習があって。
楠木七菜が指揮棒を振る。
止める。
「そこ、もう少し」
言葉が止まる。
「……」
「違うというか……」
部員、黙って待つ。
楠木七菜。
考える。
音は聴こえている。
欲しい音も、頭の中にはある。
それをどう言ったら伝わるか。
それがない。
佐々木先生が後ろから見てる。
振り返って。
「先生」
「はい」
「こういうとき」
「はい」
「どう言えばいいんですか?」
佐々木先生と。
相談。
「じゃあ……」
言葉を探す。
「そういうときは……」
見つける。
それを。
部員に伝える。
演奏再開。
終わりまで演奏。
楠木七菜、振り返る。
「伝わりましたね」
「はい」
うれしい。
練習は続く。
楠木七菜、止める。
「すいません、今のところ」
「木管。もう少し軽くできますか?」
吹く。
楠木七菜が聴いて。
「もう少し」
吹く。
「はい、それでお願いします」
進む。
止める。
「チューバ」
立花奈緒。
「はい」
「そこ、もう少し歌う感じで」
「……もう少し具体的に」
楠木七菜、考える。
「もう少し響かせる感じ」
「どれくらい?」
「うーん」
もう少し考えて。
「十歳が十二歳になるくらい」
「……」
それは。
さすがに。
「わかりにくい」
「ごめん」
立花奈緒、吹く。
「そう、それ」
「吹いてる私がわからない」
「でもそれ」
「とりあえず分かった」
そうして。
合奏が完成していくのを。
佐々木先生は。
後ろで。
楽しそうに。
見ていた。




