哀れな中年と「無表情な店主」
タカシさんは、またもやシャツに少しだけコーヒーをこぼしてしまいました。その瞬間、
「(またあの店に行かなきゃならないのか…」」
と顔を手で覆い、数秒間じっとしていました。結局、シャツを手に持ち、いつものクリーニング店へ足を運びます。
店のドアを押すと、カウンターの奥に店主が無言で立っています。タカシさんは
「またこのシャツなんですけど、コーヒーを少しこぼしちゃいまして…」
と申し訳なさそうに説明します。店主はシャツを見るなり、
「預かります」
とだけ呟き、カウンターの内側で無駄のない動きでタグをつけ始めます。まるで機械のように流れる作業に、タカシさんは一瞬見入ってしまいました。
数日後、シャツを受け取りに来たタカシさん。袋を渡された瞬間、
「どうですか、取れましたかね?」
と恐る恐る尋ねます。店主は、袋越しに胸元を指差しながら
「少しだけ残ってしまいました」
と事務的に答えます。それ以上の説明もなく、店主はすぐに別の作業に取り掛かりました。
帰宅後、シャツを取り出してみたタカシさん。シミは確かに薄くなっているものの、微妙に残った跡が、彼をじっと見返しているように感じられました。
「もう、この薄いシミのあるシャツは俺と運命を共にするつもりなのか…」
と、シャツをじっと見つめながらつぶやきます。
そして彼は次の日もそのシャツを着て、仕事に向かいました。
「少しだけ味がある服」
という自己暗示を胸に抱えながら、淡々と日常を続けるのでした。




