序章
哀れな中年とシャツのシミの物語 序章
タカシさん(45歳)は、慌ただしい朝を迎え、コーヒーを飲みながらテレビを見ていました。ほんの一瞬、気を抜いたその瞬間、カップからほんの少しのコーヒーがシャツにこぼれてしまいます。
「(まあ、大丈夫だろう)」
と思いながらも気になるタカシさんは、出勤前に近所のクリーニング店へ急ぎます。
店に入ると、無口そうなクリーニング店の店主がカウンター越しに出迎えます。
「これ、シミなんですけど…取れますかね?」
とタカシさんが尋ねると、店主は軽く頷いて言いました。
「やってみます」
それ以上の会話もなく、タカシさんはシャツを預けて帰路につきます。
数日後、出来上がったシャツを受け取りに行ったタカシさん。再び無口な店主がカウンター越しにシャツを差し出します。
「どうですかね?」
とタカシさんが恐る恐る聞くと、店主は少しだけシャツの胸元を指差して、
「少しだけ残ってしまいました」
と淡々と告げます。確かに、よく見ないと気づかない程度のシミがありましたが、タカシさんは苦笑いしながら
「まあ、大丈夫です」
と応じました。
帰り道、タカシさんは鏡の前でシャツを着てみながら、
「このくらいなら、誰も気づかないさ」
と自分に言い聞かせます。そして、その日からこのシャツを
「ちょっとだけ味があるシャツ」
と呼ぶことにし、新しい相棒のように大切に着続けるのでした。




