哀れな中年と「カレーの微妙な一滴」
ある日、タカシさんは仕事の後輩に誘われて、新しくオープンしたインドカレーのお店に行くことになりました。
「カレーは危険だ…色がつく、匂いも残る。これ以上の天敵はない」
と心の中で恐れつつも、後輩との親睦を深めるため、慎重に食事へ臨む決意を固めました。
カレーが運ばれてくると、その香りに少し気を緩めそうになりましたが、そこはタカシさん。ナンを両手でしっかり持ち、カレー皿の縁を少し持ち上げて最大限の注意を払います。
「よし、この調子なら問題ない」
と自信を取り戻し、無事に食べ進めていきました。
ところが、ナンの最後の一切れをカレーに浸した瞬間、小さな滴が飛び出し、シャツの袖口にポタリ。
「なんでこんなタイミングで!」
とタカシさんは呆然としながら、ナプキンでそっと拭きますが、黄色い染みがくっきりと残ってしまいます。
「やっぱりカレーは恐ろしい…」
とため息をつきつつ、会話に集中しようとしました。
帰宅後、タカシさんはお湯と洗剤を使って袖を洗いましたが、カレーの黄色は頑固で消えません。
「もうクリーニング屋に頼るしかない」
と覚悟を決め、いつもの店に向かいます。
店に着くと、無口な店主が
「今回は?」
とお決まりの問いかけ。
「カレーです…ほんの少しだけ」
とタカシさんは申し訳なさそうに答えます。店主は一瞬シャツを見て
「預かります」
と言い、静かに会計作業を始めます。
数日後、シャツを受け取りに行ったタカシさん。
「どうですか?」
と尋ねると、店主はまたしても淡々と
「少しだけ残っています」
と告げました。袋を開けると、袖口の染みはかなり薄くなり、ほとんど気にならない程度。
「これなら、また着られるな」
と自分を励ましながら、シャツを大事に持ち帰りました。
タカシさんは帰宅後、鏡の前でシャツを眺めながら
「次はインドカレーだけは避ける。いや、そもそも食べ物を遠ざけるべきかもしれない…」
と半ば絶望した小声でつぶやくのでした。




