哀れな中年と「蜂蜜の罠」
その日、タカシさんは休日の朝をのんびりと過ごしながら、特別な朝食を楽しもうと意気込んでいました。トーストにバターを塗り、さらに蜂蜜を贅沢にたらすという至福の時間。
「今日は完璧に美味しい朝を迎えられる」
と微笑みながら、慎重にスプーンで蜂蜜を扱います。
ところが、スプーンから蜂蜜が一滴…まるで時間がスローモーションになるかのように、ゆっくりと輝きながらタカシさんのシャツに到達。
「嘘だろ…朝食ぐらいは平和に過ごさせてくれ!」
と、彼は軽く絶望しました。
急いでキッチンペーパーで拭き取ろうとするも、蜂蜜の粘着力はあなどれません。仕方なく、シャツを脱いで水で洗い流し、洗濯機にかける準備を始めました。しかし、乾いた後も微妙に光る跡が残っており、
「もうクリーニング屋しかない」
とため息をつきながら店へ向かいます。
店に到着すると、いつもの無口な店主が淡々と対応します。
「今回は?」
と短く尋ねられ、タカシさんは
「蜂蜜です…少しだけ」
と答えました。店主はシャツを見て
「預かります」
と、いつも通りの無表情で受け取ります。
数日後、タカシさんはシャツを受け取りに訪れました。
「どうですか?」
と聞くと、店主はお決まりの一言で
「少しだけ残っています」
と告げます。袋を開けると、蜂蜜の跡はほぼ目立たなくなっていました。
「まあ、これならまた着られるか」
と苦笑いしながらシャツをバッグにしまいました。
帰宅後、再びトーストを食べることを一瞬ためらいましたが、タカシさんは意を決して蜂蜜ではなくジャムを選びました。しかし、その選択がまた新たな物語の幕開けになることは、このときはまだ誰の知る由もなかったのです。
~Fin~




