第64話
クラムラクモリック伯爵が、厳かに口を開いた。
「それでは証人、オスコ・ハゼプシール及びトデンダー・クラウドコール。あなたたちとユーリックブレヒト公爵との関係を話してください」
「それでは、わたくしから」
そう言って前に出たのは、トデンダーだった。
眉雪の彼は恭しく一礼すると、口を開く。
「わたくしは、ユーリックブレヒト公爵様の執事でございます」
「証人。発言は正確にお願いいたします。あなたとユーリックブレヒト公爵の間に、現在は雇用関係は存在していないはずです」
クラムラクモリック伯爵の言葉に、トデンダーはしっかりと首を横に振る。
「いいえ、クラムラクモリック伯爵様。わたくしたちとユーリックブレヒト公爵様の間にあるのは、その様な紙切れで結ばれた表面上の関係ではございません」
「そうです。ユーリックブレヒト様と私たちには、この世でもっとも強固な結びつきが、魂によるつながりがあるのです。いついかなる扱いを受けようとも、私たちの主はユーリックブレヒト様以外存在せず、そして未来永劫それは変わることはありえません」
オスコの言葉に、流石のクラムラクモリック伯爵も目を白黒させる。
部屋の中も彼らの発言の異質さを感じて、ざわつき始めた。
一拍遅れて、クラムラクモリック伯爵が木槌を叩き、声を上げる。
「静粛に、静粛に! 証人、あなたがたは、一体何を言い始めるのですか? あなたがたの発言の信憑性がなくなるのであれば、証人としての発言の信憑性も――」
「まぁまぁ、少し待って頂けませんかな? クラムラクモリック伯爵」
そう言ってクラムラクモリック伯爵の言葉を遮ったのは、ラルヴァ男爵だった。
彼は舞台俳優もかくやと言わんばかりに手を広げ、傍聴席と裁判を仕切るクラムラクモリック伯爵に向かって口を開く。
「思い出してください、クラムラクモリック伯爵。彼らは、罪人なのですよ? 普通の人間は罪など犯しません。つまり、罪を犯した彼らは普通ではないのです。妄言の一つや二つ言いもするでしょう」
「ちょっと、より信憑性が高い証人を選ぶということで、彼らを呼んだのですわよね? それなのに妄言の一つや二つですって? そんな状況で、彼らの発言の信憑性が高いとは、とても言うことは出来ませんわよっ!」
たまらず私はそう言って、クラムラクモリック伯爵を睨む。
「クラムラクモリック伯爵。オスコとトデンダーの状態は、ご認識頂けましたわね? 彼らの発言は証拠として裁判で議論するには不適切なものだと考えますわ!」
「その議論は既にしたはずですよ? セラ公爵夫人。そして彼女たちが証人としてこの場に呼ばれているということは、それを王族の方々が承認しているということに他なりません。こんな有り様ですが、この二人はユーリックブレヒト公爵の家で今雇われている使用人たちより、その証言に信憑性があると判断されているのですよ」
勝ち誇るようにラルヴァ男爵がそう言うと、彼はすぐにクラムラクモリック伯爵に向かって口を開く。
「ユーリックブレヒト公爵の現在の使用人を裁判に承認として呼べない以上、彼女たちとユーリックブレヒト公爵の関係性については、親しい間柄だとわかれば十分なのではありませんかな? そしてそういった間柄の人間に、吾輩の主張が正しいか否かを確認し、裁判を進めるのが重要だと思うのですが?」
「何を勝手なことをっ!」
「よせ、セラ」
私を止めようとするユーリックブレヒトを、思わず睨む。
「ですが、ユーリックブレヒト! こんないい加減な状態であなたとアシュの今後が決められるだなんて、私、我慢なりませんわよ!」
「気持ちはわかる。だが、ラルヴァ男爵の言う通り、王族がオスコとトデンダーをこの裁判の証人として認めている事実は無視できない」
確かに、貴族社会のこの国で、王族に逆らうということは神に逆らうということに等しい。
流石にクラムラクモリック伯爵もその事実は無視出来ないようで、釈然としない表情のまま木槌を叩く。
「では、ラルヴァ男爵の言い分を認め、裁判を進行させることを優先いたします」
「ご理解いただけて、恐悦至極です」
大げさに、ラルヴァ男爵が礼をする。
……本当に、いちいち癪に障る男ですわね。
そう思っている私をよそに、クラムラクモリック伯爵が口を開く。
「では、両証人に質問いたします。あなたがたは、ラルヴァ男爵の主張が正しいと思われますか? つまり、ユーリックブレヒト公爵が、ジメンドレ前公爵夫人が亡くなったことで王族の方々の血を引かれるアシュバルム御子息を義理の息子として迎え入れ、自分の思惑通りに動くよう御子息を洗脳した可能性はあると思われますか?」
何を馬鹿なことを、ともう何度目になるのかわからない感想を私は抱く。
しかし、その馬鹿げた主張が真面目に検証されるのがこの裁判だ。
そしてこの裁判を、更に馬鹿げたものにせんとばかりに、オスコとトデンダーが口を開く。
「可能性があったかなかったで証言させて頂くのであれば、十分ありえたと私は考えます」
「わたくしも、同様の意見です。ご聡明なユーリックブレヒト公爵様であれば、あの忌まわしいジメンドレの血を引いている忌み子を有効活用する方法も思いつかれたでしょう」
その言葉に、再び傍聴席が騒がしくなる。
犯罪者とはいえ、ユーリックブレヒトの元使用人が、ラルヴァ男爵の主張を認めたのだ。
男爵の主張を認める発言に、今回の裁判を一種の劇としか考えていない貴族どもが、口々に勝手なことを話し始める。
「やはりラルヴァ男爵の主張は正しかったのか」
「昔からユーリックブレヒト公爵は怪しいと思っていたんだ」
「しかし、これでもうユーリックブレヒト公爵は完全におしまいだな」
「静粛に、静粛に! 発言を止めないものは、強制的に退出をお願いいたします」
クラムラクモリック伯爵が木槌を鳴らし、裁判の進行を進めていく。
「証人。では続けて問いましょう。あなたがたは、何故そのように簡単にラルヴァ男爵の主張を認めることが出来るのですか? にわかには信じられない主張のように私には感じられるのですが」
「それについては、私の方からご説明差し上げましょう」
クラムラクモリック伯爵の言葉に、オスコが反応する。
分厚い眼鏡をかけたまま、彼女はじっ、とユーリックブレヒトを見つめて、口を開いた。
「ユーリックブレヒト様の行動は、全て私たちのため。そう、あのクソガキを手元に置いていたのも、全ては私たち使用人のためなのです」
「また、言っている意味がわからないのですが」
そのクラムラクモリック伯爵の問に、オスコは微笑をたたえながら、口を開く。
「だってユーリックブレヒト様は、私たちのために、あの忌まわしきジメンドレを毒殺してくださったのですから」




