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愛する旦那よりも先に、愛しい息子が出来ました  作者: メグリくくる


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第60話

 そう思うが、私としては何でもいい。

 だからとでも言うように、私は挑むようにハイニクト第二十三王子を見つめる。

「それで、よろしくてよ? 私、必ずアシュをラルヴァ男爵から救い出し、そしてユーリックブレヒトも取り戻してみせますわ」

「それは頼もしいな」

「では、私とユーリックブレヒトの婚姻関係は継続ということで」

 そう言った後、ハイニクト第二十三王子の言葉を待ったが、彼は何も発しなかった。

 仕方なく、私の方から確認することにする。

「それで?」

「それで、とは?」

「決まっておりますわ。まだ、最初の質問に答えていただけただけですわよ」

 私は先程、こう質問していた。

 

『それがわかっていながら、どうして改めて私を試すような事をしたのです? それに、ハイニクト第二十三王子はいつから、そしてどこからアシュの事を監視しておられたのですか?』

 

「後半の方の回答を、是非お願いしたいのですが」

 そう言うとハイニクト第二十三王子は、豪快に笑った。

 そして、僅かばかりの茶目っ気を込めて、口を開く。

「それは、知らない方が身のためだ、セラ・ハーバリスト公爵夫人」

 そう言われては、こちらとしてはこれ以上食らいつくことは出来ない。

 私は肩をすくめつつ、口を開いた。

「では、私とユーリックブレヒトの婚姻については、よろしくお願いしますわね、ハイニクト第二十三王子」

「わかっている。それから、裁判は少なくとも公平な判断が出来るものを回しておこう」

「助かりますわ。ラルヴァ男爵の息がかかっていないというだけでも、ずいぶん気が楽ですもの」

「だが、裁判で出てくる証言は不利なものばかりになるだろう」

「それはもう覚悟の上ですわ。でわ、もう行きますわね」

「最後に」

 部屋を出ようとした私に向かい、王子が口を開く。

「あの子を、頼んだぞ」

「言われるまでもありませんわ」

 それから私はショルミーズとソルヒを連れてハーバリスト公爵家の屋敷に戻り、情報を集めつつユーリックブレヒトの裁判で行われそうな弁論についてシミュレーションを重ねていった。

 そして、ついに。

 明日、ユーリックブレヒトの裁判が開かれることとなった。

 

 =====================================================

 

 城に用意された部屋は、満員御礼では過小表現になるほどの人だかりが出来ていた。

 ちなみにそれは、一階の話である。

 なんとユーリックブレヒトの裁判では、それ専用の部屋が設えられており、二階席、三階席まで用意されていた。

 ……さながら、オペラやバレーを観戦するための観客席のようですわね。

 そう考えた私の表現は、あながち間違いではないだろう。

 何故なら今から始まるのは通常の裁判ではなく、一種のショーだからだ。

 そして観客たちがどのようなショーを望んでいるのかは、彼らの声を聞けばわかる。

「いやはや、果たしてどうなりますかな? ユーリックブレヒト公爵は」

「どうなるも何も、もうおしまいでしょう」

「そうですとも。この裁判でついにユーリックブレヒト公爵の悪事が裁かれるのですから」

「年貢の納め時というやつですかな」

「然り。王族の血を引かれるアシュバルム様を自分の子としていたのですから」

「それにしても、それを見抜いたラルヴァ男爵の慧眼は素晴らしいですな」

「ユーリックブレヒト公爵の悪行に、一体いつ気づいたのでしょう?」

「いやはや、その先見性に是非あやかりたいものですな」

「いずれ男爵から子爵、伯爵、侯爵を経て、公爵へ至るのは確実でしょう」

「先にアシュバルム様の実の父親を押さえておくというやり方が、実に妙手ではありませんか」

「社交界でもユーリックブレヒト公爵のアシュバルム様へのガードは、非常に固かったですからな」

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だなんて言葉もありますが、まさか馬の方を見つけてくるとは」

「その様な発想、普通では思いつきませんからな」

「いやいや、そもそも考えもしないでしょう。公爵とその息子が血が繋がっていないなど、一体誰が疑いましょう」

「考え方がそもそも違うのでしょうな」

「どの様な環境で育てば、その様な柔軟な考えが出るようになるのか」

「そのラルヴァ男爵の御子息御息女も、さぞや聡明なのでしょうな」

「是非その辺りもお話をお聞かせいただきたい」

「その場合、子供たち同士の交流も大切ですぞ」

「そのとおりです。娘のスルレスタには、是非ラルヴァ男爵の御子息とお話を――」

「何をおっしゃいます。私の愚息であるレルドテこそラルヴァ男爵の御子息と、是非お茶を――」

「いやいや、孫のフィルカこそラルヴァ男爵の御子息とお話するにふさわしい淑女としての嗜みを仕込んでおりますぞ?」

「それを言うのでしたら、うちのヴォブレックだって――」

 ……本当に、こいつらの会話はいつも反吐が出そうになりますわね。

 今まで手放しで褒めそやしていたユーリックブレヒトが不利になったと知った途端、簡単に手のひらを返す。

 そして風向きが良くなったラルヴァ男爵を一斉に称賛し、すり寄ろうとする。

 ……そのすり寄り方が、非常に気に入りませんわ。

 彼らが社交界でアシュにやろうとした方法と、全く同じだ。

 自分の子供や孫を道具のように扱い、自分の出世のためだけに差し出そうとする。

 本当に、いつまで経っても慣れない貴族社会で、この考え方だけは相容れない。相容れる気もないし、絶対にするつもりもなかった。

 その決意を体で表現するように、私は毅然とした表情で自分を囲む彼らを見回す。

 誰も彼もが嘲りの表情を浮かべており、ここには敵しかいない。

 敵、敵、敵、敵、敵だらけだ。

 ……でも、それが何だといいますの?

 私がクロッペンフーデ大王国に、ユーリックブレヒトの元へ嫁いできた時だってそうだったのだ。

 そう考えると、そのユーリックブレヒトにソルヒ、ショルミーズと、この国に味方がいるというだけで、あの頃に比べればずいぶん恵まれている環境に感じる。

 他の国という意味でいうと、スローたちの家族には既にかなり助けられていた。

 しかし、それ以上の違いは、あの頃と比べて一番の違いは――

 ……私には愛する息子が、アシュがおりますもの。

 だからこそ、負けるわけにはいかない。

 あの子のためにも、私のためにも、何より私たちの家族であるユーリックブレヒトのためにも、この裁判は絶対に負けるわけにはいかなかった。

 その決意を新たにした所で、裁判官席に人が入ってくる。

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