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第三話 召喚術師。古代魔獣。

 歩いて五分ほどで、山のふもとに辿り着いた。

 確かめるように、アリアは周囲をぐるりと見渡した。


(この辺りの岩の大きさや配置──探索ディティクティブの情報と一致する)


「ここで間違いないよ。少し登ったところに大きな岩があるはず。行こう、オルカ」


 そう言って、アリアは一歩足を踏み出した。


「待って、アリア!」

「ふぇっ!?」


 ぐいっと肩を掴まれ、アリアはバランスを崩した。転ばないようにオルカはアリアを抱き止めた。


(なに! なに!? なんかいきなり抱きしめられちゃった!?)


 驚きと緊張でパニックに陥るアリア。混乱しながら、そっとオルカの顔を見上げた。


(──え?)


 アリアは一瞬で我に返った。オルカが額に汗を浮かべ、表情を強張らせていたからだ。


「ど、どうしたのオルカ……?」

「妙な気配を感じる。近くに誰か……いる!」


「我は開く。時空の扉を現世へと──」


 どこからともなく聞こえた詠唱とともに、突如アリアたちの背後の地面が淡く発光した。


「アリア!」

「──!?」


 オルカは咄嗟にアリアを抱き上げ、数メートル後方へと飛び退いた。アリアは発光する地面を見て、目を大きく見開いた。


(ま、魔方陣……!?)


 アリアはにわかには信じることができなかった。ここまで巨大な魔方陣は未だかつて見たことがなかったからだ。


を持ち、かいつむぐ──」


 詠唱が続くたび、魔方陣はより一層輝きを増していく。


「呼び起こせしは岩巨兵。いにしえちぎりに従い、我に仇なす者に絶望を与えん!」


 詠唱が完成し、魔方陣の内部が金色こんじきに染まった。

 そして、解放キーが静かに響いた──


古代魔獣召喚エンシェント・ゲート


 魔法陣から、天に向かって光の柱が立ちのぼる。


「嘘……」

「なんだよ、これ……」


 二人は言葉を失った。

 光の柱から、巨大な魔獣が現れたからである。無数の鉱物と魔法石を体中にとってつけたようなゴツゴツした姿のその魔獣は、ゆうに七メートルはあった。顔のような部分についた赤く光る眼が、ギロリと二人を睨みつける。


「し、召喚……獣?」


(こんな魔獣、図鑑でも見たことないよ……)


 アリアは震えながら、オルカの服をぎゅっと握った。それに応えるように、オルカはアリアを強く抱きしめた。


「ガアアアァッ!」


 突如、魔獣はこの世のものとは思えない雄たけびを上げた。ただそれだけで大気がビリビリと震えた。

 言葉にならなかった。奥歯がカチカチと音を立てて震える。全身から力が抜けていき、アリアは地面に座り込んでしまった。


「なんだぁ。吠えただけでその様かよ」


 どこかで聞いたことのある声があがる。アリアとオルカは声のした方へと視線を向けた。魔獣の足元に一人の男が立っていた。


 男はひょろっとした細身の体型で、黒い簡素なシャツとズボンを身に付けていた。猫背のためか、背は高いのにあまり大きく見えない。

 目付きは鋭く、ブルーブラックの髪の毛は前髪で顔の右半分が隠れるほど長い。

 見た目の雰囲気とベッタリと張りつくようなしゃべり方が、悪人であることを主張しているかのようである。


「だ、誰……?」

「あぁ? 察しが悪りぃな。このタイミングで出てきたら普通わかんだろうが」


 男は舌打ちをして、アリアを睨み付けた。


「お前がこの魔獣を召喚した召喚術師ゲートキーパーだな?」


 それはオルカは声だった。

 男はニヤリと笑った。


「そう、正解だ。そして、これからお前らを殺す者だ」


(私たちを……殺す?)


 アリアは震えながらも、絞り出すようにして声を張り上げた。


「あ、あなたはさっきから何を言っているの!? 人違いだよ、絶対!」

「そうだ。俺たちは命を狙われるようなことをした覚えはない! ただの学生だぞ!?」


 勘違いであってほしい──

 そんな二人の淡い期待はすぐに崩れ去った。


「残念ながら間違いじゃないんだよ。アリア・イル・フリーデルト。そして、オルカ・イヴ・クスト」


 男は二人の名前を呼び、下卑げびた笑みを浮かべた。


「そんな……どうして」

「これから死ぬお前らが、それを知る意味あんのか?」


 男はそう良い放ち、魔獣の肩の上に跳び乗った。


「やれ、ギガントメテオール」


 魔獣の右腕がゆっくりとあがる。動くたびに鉱物やら魔石やらがガチガチとぶつかる音がして、その重厚さが嫌でも伝わってきた。


(何を……するつもりなの?)


「まずいっ! アリア!」


 オルカは慌ててアリアを引っ張り起こした。

 次の瞬間、魔獣の腕が振り下ろされた。重量感のある魔獣の拳が、勢いよく地面に叩きつけられる。

 まるでガラスのように無数の亀裂が地面に入り、そのまま一気に捲れ上がった。噴き出すように、亀裂から土砂が舞い上がる。


「――ッ!?」


 逃げる間もなく、二人は舞い上がる土砂に一瞬で飲み込まれていった。

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