表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/33

第4話 心の乱れ — 反抗期の火種 ―――回想シーン

春休み前の夕方。


玄関のドアを開けた瞬間、母ゆきえの声が飛んできた。


「ハル、靴そろえて。脱ぎっぱなしにしないの」

(帰ってきて一秒でこれかよ……)


わざと靴を蹴って、壁に当てた。


母ゆきえが「ちょっと!」と言ったけれど、無視してリビングへ向かった。


テーブルには、ゆきえが買ってきた“健康ドリンク”が置かれていた。


ラベルには「集中力MAX!」と書いてある。

(こういうの勝手に買ってくるの、ほんとやめてほしい……)


母ゆきえが言う前に、そのドリンクを冷蔵庫の奥に押し込んだ。


わざとガタンと音を立てた。


「ハル、宿題は? プリント、まだでしょ」

(うるさい……)


返事をしないまま、階段をドスドスと上がった。


母ゆきえが「返事くらいしなさい!」と叫んだが、ドアをバタンと閉めて遮さえぎった。


部屋に入ると、机の上に母のメモが置いてあった。

『部屋の片づけ

プリント整理

春休みの計画表を書くこと』


(計画表なんて書くわけないだろ……)


メモを丸めて、ゴミ箱に投げつけた。


外れた。


拾わなかった。


スマホを見ると、母からのメッセージが四件。


『おやつあるよ』

『部屋、片づけてね』

『返事して』

『ちゃんと見てるの?』


(見てるよ……でも返したくないんだよ)


スマホを裏返し、通知が見えないように伏せた。


胸の奥が、じわじわと熱くなる。


理由なんてない。


ただ、全部が気に入らない。


机の上のプリントを手に取ったが、すぐに投げた。


ランドセルを蹴った。


椅子を回転させて、壁にぶつけた。

(なんで僕ばっかり……なんで全部言われなきゃいけないんだよ……)


窓の外では、春の風が吹いていた。


なのに、部屋の空気はどこか重く、まとわりつくようだった。


母の足音が廊下に近づく。

「ハル、ちょっと話——」


「うるさい!!」


自分でも驚くほど大きな声が出た。


母の足音が止まる。


静寂が落ちた。


その静けさが、逆に胸をざわつかせた。

(……もう、ほっといてよ)


胸の奥で、何かがゆっくりと乱れ始めていた。


それは怒りでも悲しみでもない。


ただ、どうしようもない“荒れ”が、静かに積もっていく。


父・しげるが、ゆきえの隣に腰を下ろした。


ゆきえ

「ねえ、あなた……春休みに入ってから、ハルが前より反発するのよ。

声をかけても返事しないし、目も合わせてくれない。

私、何か間違えたのかしら」


しげる

「正直、俺だって正解は分からないよ」

「反抗期ってさ、子どもが“自分で考えようとしてる証拠”なんだと思う」

「イライラする時もある。でも、たぶん今は押し返すより、待つ時期なんじゃないかな」


ゆきえは、そっと視線を落とす。


しげる

「ハルはちゃんと育ってる。だからこそ、今はぶつかるんだ」

「大事なのは、僕たちが“味方だよ”って、言葉より態度で見せてあげることじゃないかな」


ゆきえは、小さく息をついた。


しげる

「反抗期はね、子どもだけじゃなくて、親にとっても成長の時期なんだ」

「僕たちが揺れながらも、ハルを信じてあげる。それが親の責任だよ」


ゆきえは、ふっと表情を緩める。


「……でも、あなた。躾はどうすればいいの?」


しげる

「ゆきえ、躾けは必要だよ」

「でもね、反抗期の躾けって“言うことを聞かせる”ことじゃないんだ」


「していいことと、いけないことの線だけは、僕たちが示す。

その上で、ハルが自分で考えて、自分で選べるように見守るんだよ」


「怒ることも必要だと思う。

でも、無理やり押さえつけたら、たぶんもっと苦しくなる気がするんだ」


ゆきえは、静かにうなずいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ