第29話 一人になりたい日
冬の空は高かった。
澄みきった青の向こうへ、
何かが消えていくような気がする。
遥斗は校舎の渡り廊下から、
ぼんやりと空を見上げていた。
風が吹く。
「曇って、不思議だ……」
「あの大きな木の上にある雲は、サメかな?」
「ふっ」
雲が表情を変えるたびに、名前をつけて楽しんでいた。
「あっクロエに見える」
思わず遥斗は、吹き出した。
「それと、あれは長い髪の……」
遥斗は途中で言葉を止めた。
昼休み。
「何だか、教室に戻りたくないな」
何かがあったわけじゃない。
健志とも普通に話した。
ジェシカとも笑った。
クロエだって今朝は元気だった。
それなのに。
胸の奥だけが、
妙に静かだった。
遥斗は階段を下りながら窓の外へ目を運んだ。
鳥が一羽。
風に乗って流れていく。
――何だろう。
うまく言葉にならない。
寂しいわけじゃない。
苦しいわけでもない。
ただ。
少しだけ。
誰にも見つからない場所へ行きたい気分だった。
チャイムが鳴る。
昼休みの終わりを告げる音。
生徒たちが校舎へ戻り始める。
遥斗もゆっくり歩き出した。
その途中。
「ハル!」
後ろから元気な声が飛んでくる。
振り返ると、
健志が手を振っていた。
「何してんだよ」
「いや、ちょっと」
「何だよ、それ」
健志は口もとを歪めた。
「ジェシカが探してたぞ」
その言葉に、
遥斗は少しだけ目を伏せた。
「そう」
「そっか、あとでジェシカに声を掛けろよ」
「うん、わかった」
健志は、見守る様に、そばを離れた。
けれど遥斗自身も、
何を話せばいいのか分からなかった。
ただ。
今は少しだけ。
静かな場所にいたかった。
「わん」
クロエ?




