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第23話 ジェシカの不思議。

クロエがタケシを追いかけて砂浜を走り回っているのを見ながら、

私はずっと首をかしげていた。


——なんでクロエ、あんなに怒ってるんだろう?


タケシが変なこと言ったり、

ちょっと調子に乗ったりするのはいつものことだけど、

今日のクロエは明らかに“本気で教育してる”感じだった。


「タケシ、またクロエに怒られてるね」

そう笑いながら言ったけど、

内心では少しだけ不思議だった。


クロエって、普段はすごく優しい。

私が落ち込んでるときはそっと寄り添ってくれるし、

ハルが疲れてるときは足元で寝てあげる。


でも今日は違う。

タケシが誰かをじーっと見るたびに、

クロエの耳がピクッと動いて、

次の瞬間には“ガブッ”といっていた。


(……なんで?)


タケシが悪いことをしてるようには見えなかった。

ただ、ちょっとニコニコしてただけ。

それだけで、クロエはあんなに怒るの?


わからない。

本当にわからない。


でも——

もっとわからなかったのは、

クロエが急にハルを追いかけ始めたとき。


「えっ、なんでハルまで!?」


私はぽかんと口を開けたまま、

逃げるハルと追うクロエを見ていた。


タケシは砂浜に座り込んで、

なぜか悟ったような顔で言った。


「ジェシカ……クロエはな……

 “男の目線”に敏感なんだよ……」


“男の目線”?

どういう意味?


私は自分の水着姿を見下ろして、

また首をかしげた。


(……私、何か変だった?

 水着、変じゃないよね?

 ハル、何か見てた?)


でも、ハルが私を見てたとして何を見てたの?

わからない。


クロエがハルを追いかけている間、

胸の奥が、ちょっとだけざわついた。


それなのに——


なぜか嫌な気持ちはしなかった。


むしろ、


ほんの少しだけ、嬉しかった。


(……え? なんで“嬉しい”なんて思うの?)


自分の中から出てきたその感情に、

私はいちばん驚いた。


ハルが私を見ていたかもしれない。

その可能性を考えただけで、

胸がふわっと温かくなる。


でも、

そんな気持ちを認めるのは恥ずかしくて、

自分でもよくわからなくて。


(……どうしてこんな気持ちになるんだろう)


クロエの吠える声が遠くに聞こえる。

海の風が少し冷たく感じた。


私は胸に手を当てて、

その“名前のない気持ち”をそっと押さえた。


——この気持ちが何なのか気づくのは、

きっとまだずっと先のこと。



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