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第20話 揺れる水面と君の横顔。胸が跳ねた瞬間、なぜかクロエが来た。

ジェシカと遥斗はパラソルの下で、

ただ海風に身をゆだねるように、くつろいでいた。


波の寄せて返す音は、

遥斗の胸の奥に沈んでいた小さな期待を

そっと撫でるようで、

影の中は陽射しの強さを

忘れるほど静かだった。

時間が、ゆっくりと溶けていく。


ジェシカは足を投げ出し、

その隣で遥斗は、波の揺れをぼんやりと目で追っていた。

ふいに、柔らかな風が吹いた。

ジェシカの髪が、かすかに鼻先をかすめる。

潮風に混じって、甘い香りがふっと流れ込んだ。


胸の奥が、わずかに跳ねた。

視線が自然と隣へ向かう。


顔を上げた瞬間、

太陽の光が水面に反射して、

ジェシカの横顔をやわらかく照らしていた。


指先で無意識に髪を耳にかける仕草。


その動きに合わせて、

光が髪の筋をすべり落ちる。


まつげの影が頬に揺れ、

唇が少しだけ開いて、海風を吸い込む。


そのとき、少し離れたところで

クロエがタケシの足元に飛びついた。

「ちょ、クロエ!? もう勘弁してよ!」

タケシが情けない声を上げると、

クロエはさらに尻尾をぶんぶん振り、

タケシの足のまわりを小さく円を描くように回りはじめた。


タケシが慌てて逃げようとすると、

クロエは大ジャンプでタケシに飛びつき、

タケシはよろめいて砂の上に崩れ落ちた。


その仕草があまりにも可愛くて——

ジェシカはふっと目元をゆるめた。

胸の奥の柔らかい部分が

そのまま表情になったような、

あたたかくて、静かにほどける微笑みが浮かぶ。


ジェシカが、息を小さく吸った。

そして——

「……夢を見ているみたい」


遥斗は思わず彼女を見た。


どれくらいの時間が過ぎたのか、

自分でもわからない。


気づけば口が半開きで、

おそらく間抜けな顔をしていたと思う。


「えっ!」

自分の声で、ようやく我に返る。


——ダ  ダンッ

——ダ ダンッ

——ダダンッ。


遥斗はまだ気づいていなかった。


“それ”が、

着実に近づいていることに。


砂を蹴る音が、突然背後から迫ってきた。

砂浜のはずなのに、

なぜかはっきりとリズムが近づいてくる。


(……え?)

振り返るより早く、 黒い影が一瞬止まった。

クロエだ。

その目が、まっすぐ遥斗を


—— 「ロックオン」 していた。


次の瞬間、 クロエは身を低くし、

弾かれたようにこちらへ突っ込んでくる。


「うわっ!」

反射的に体が跳ね、

遥斗はそのまま全力で駆け出していた。

自分でも理由がわからないほど必死だった。


後ろでジェシカが驚いた声を上げる。

「ちょ、ハル!? なに!?」


クロエは尻尾を

ぶんぶん振りながら追いかけてきて、

その姿があまりにも楽しそうで、

遥斗は走りながら思わず笑いそうになった。


さっきまで胸の奥にあった熱い感覚は、

今は別の形で弾けていた。


「……楽しい」


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