19-2話 キャプテン・クロエと、笑い声の帰り道
放課後の帰り道
放課後の校庭には、
夕焼けがオレンジ色の絵の具みたいに広がっていた。
その中を、クロエが堂々と先頭を歩く。
まるで
“今日の帰り道は任せて”
と言わんばかりに、尻尾がピーン。
「おいクロエ、今日も隊長かよ」
健志が笑いながらついていく。
ジェシカはその横で、
「うん、クロエは毎日隊長だよ」と当然のように言う。
遥斗は少し後ろから、
2人と1匹の背中を見ながら歩いていた。
クロエは突然、右に曲がる。
その動きがあまりに自然すぎて、
健志がつまずきそうになる。
「ちょ、急に曲がるなよ!
俺の足の長さ考えてくれ!」
クロエは振り返って「わん」と一声。
すました顔で視線を健志に向ける。
ジェシカが吹き出す。
「健志、クロエは気分でルート変えるんだよ」
「気分で!? 俺らの都合は!?」
「ないよ」
ジェシカが即答すると、
クロエは誇らしげに胸を張った。
黒い毛が夕陽に照らされて、
ちょっとだけ金色に縁取られる。
遥斗は思わず笑ってしまう。
「……ほんと、自由だな」
「自由っていうか、
クロエって人の気持ち読むからね」
ジェシカが言う。
健志が振り返る。
「じゃあ今の俺の気持ちもわかるのか?」
クロエは健志の足元にぴょんと跳ねて、
尻尾をぶんぶん振ったあと——
健志の靴を “ぺちっ” と前足で叩いた。
「おおっ!? なんだこれ、励まし!? それとも抗議!?」
ジェシカが笑い転げる。
「健志、今日シュート外しまくってたから、
クロエが“もっと頑張れ”って言ってるんだよ」
「おいジェシカ、それ言う!?
俺だってわかってるよ!?」
クロエはさらに “ぺちぺちっ”。
完全に追い打ち。
「うわぁぁぁ!
犬にまでダメ出しされる中学生って俺だけだろ!」
遥斗は声を上げて笑った。
夕焼けの光の中、
クロエの黒い毛がふわりと揺れて、
影がそれを追うように、やさしく流れた。
ジェシカがふと振り返り、
遥斗に微笑む。
「ハル、なんか楽しそう」
「え? あ、いや……」
遥斗は言葉に詰まる。
でもジェシカはその表情だけで
遥斗の気持ちを読み取ったように、
くすっと笑った。
その瞬間、クロエがまた道を変える。
今度はなぜか、学校の裏庭へ。
「おい隊長! どこ行くんだよ!」
健志が叫ぶ。
クロエは振り返り、
“ついてこい” と言わんばかりに尻尾を一振り。
黒い影が夕陽の中で軽やかに跳ねた。
ジェシカが笑う。
「まあいいじゃん。
クロエが選ぶ道って、なんか楽しいし」
遥斗も小さく頷く。
(……ほんとだ。
この3人で歩くなら、どこでも楽しい)
夕焼けの帰り道。
クロエの軽い足音。
健志の騒ぎ声。
ジェシカの笑い声。
そして遥斗の静かな鼓動。
あの頃は、
この時間の全てが楽しかった。




