19-1話 クロエも参戦。ジェシカとクロエのファンクラブ
陸上部の練習がひと段落したころ、
ジェシカは水筒を片手に体育館の軒下へ向かった。
その足元には、
いつものようにクロエが寄り添っている。
クロエは、
なぜか子犬のまま成長しない。
動物病院で診てもらっても原因はわからず、
「健康そのものです」と言われるばかり。
それでもクロエは、
月に一度、地域の福祉センターで
セラピー犬として働いている。
子どもたちやお年寄りに寄り添う姿は、
まるで“心の形”を知っているかのようだった。
「クロエ、今日も応援しよっか」
クロエは尻尾をふりふりしながら、
ジェシカの横にちょこんと座った。
体育館の中では、
遥斗と健志が2対2のミニゲームをしていた。
「健志、パス!」
「任せろ!」
二人の声が響くたび、
ジェシカは嬉しそうに笑った。
「ハル、今日すごく調子いいね」
クロエが「わん」と鳴いた。
「だよね!」
ジェシカが笑う。
するとクロエは、
遥斗がボールを持つたびに尻尾を振り始めた。
「えっ……」
シュート成功。
わん!
パス成功。
わん!
ドリブル突破。
わん!
「ちょっとクロエ。
応援しすぎじゃない?」
クロエは胸を張るように座った。
まるで、
“ハルの良さ、今さら気づいたの?”
そう言いたげな顔だった。
ジェシカは思わず笑う。
そしてもう一度、
体育館へ視線を向けた。
汗だくになりながら、
仲間と笑い合う遥斗。
「……ほんとだね」
ジェシカはクロエの頭を撫でながら、
遥斗の動きをじっと見つめた。
「……なんか、いいね。
こういうの、好きかも」
クロエはジェシカの膝に前足を乗せ、
ぺろりと手を舐めた。
その仕草は、
“その気持ち、大事にしてね”
とでも言うように優しかった。
ジェシカは微笑む。
「うん、わかってるよ。
クロエも、あの二人のこと好きだよね」
体育館の中で、
遥斗がシュートを決めた。
ジェシカは思わず立ち上がる。
「ハル、すごい!」
その声に気づいた遥斗が、
照れくさそうに笑った。
クロエも「わん!」と伝える。
その声は、
体育館の空気を少しだけ明るくするようだった。




