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第19話 午後の光にほどけていく、あの日の記憶

中3になった午後の光が差し込む教室で、


水瀬(みなせ) 遥斗(はると)は、開いた教科書の文字を追いながらも、


心はまったく別の場所にあった。



先生の声は遠く、


黒板の文字は霞んで見える。



——ネムロに会ったあの日。


あの日を境に、監査官ネムロは二度と姿を見せなかった。


そしてその直後に訪れた、


ジェシカとの、あまりにも短くて、悲しく切ない一瞬の時間。


窓の外では、


春の風が校庭の桜を揺らしていた。


その揺れを見ていると、


胸の奥にしまってある数々の思い出が、


静かに浮かび上がってくる。


中1の新緑の季節、放課後の体育館は、


バスケットボールが床を叩く乾いた音で満ちていた。


「よし、ラスト一本いくぞー!」


健志(たけし)の声が響き、


遥斗は汗を拭いながらボールを受け取る。


そのとき——


体育館の窓の向こうを、


金色の髪がふわりと横切った。


「……ジェシカだ」


遥斗がつぶやくと、


健志がニヤッと笑った。


「お、今日も走ってるな。行くぞ遥斗、応援タイムだ!」


二人はボールを置き、窓際に駆け寄る。


校庭のトラックを、


ジェシカが軽やかに走っていた。


夕陽を受けて、髪が金色に光る。


「すげぇな……あいつ、速い」


健志が感心したように言う。


遥斗は、

胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


「……うん」


思わず目で追ってしまう。


ジェシカは誰かと競っているわけでもないのに、

ただ前だけを見て走っていた。


「なんか、見てると元気出るよな」


健志は肩を軽く叩いた。


「だろ? あいつ、走るときだけは世界一楽しそうだもんな」


ジェシカがこちらに気づいて手を振る。


遥斗と健志も大きく手を振り返した。


その瞬間、


体育館の中を風が優しく吹き抜けたような気がした。


——ああ……見てるだけで、胸の奥がわくわくする。


そんな感覚が、


遥斗の胸に静かに灯った。


その笑顔を、

これからも見られると、

このときの僕は信じていた。


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