第14話 クロエの本気
——この時は、まだ誰も気づいていない。
夢界の“検知”が、静かに始まっていることを。
その影が、まだ日常の笑いに紛れていたころ——。
あの出来事から、ほんの少し時間が流れた。
テストづけの日から、数日後。
ハルの家に、ジェシカとタケシが遊びに来た。
「クロエ♡ー!ただいまー!」
ジェシカが玄関で声を張る。
……しかし、いつもの“ダダダダッ”が来ない。
「えっ……クロエいないの?」
ジェシカの肩が、しゅんと落ちる。
「今日は静かだね……」
(寂しいわ)
タケシも不思議そうに首をかしげた。
そのとき——
外から、しげるの声が聞こえた。
「ただいまー。クロエ、帰るぞー」
次の瞬間。
ドドドドドドドッ!!!
玄関のドアが開いた瞬間、
クロエが弾丸のように飛び込んできた。
「クロエぇぇぇぇぇ!!!」
ジェシカが両手を広げる。
クロエ、ロックオン。
一直線。
迷いゼロ。
さらに加速。
「きゃあああああああ!!!」
ジェシカは大はしゃぎ。
クロエは全身で喜びをぶつける。
尻尾は高速回転。
鼻はジェシカの顔にツンツンツン。
前足は「抱っこ!」と言わんばかりにバタバタ。
「ちょ、ちょっとクロエ!くすぐったいってばぁぁ!!」
ジェシカは笑いすぎて床に転がる。
その様子を聞きつけたゆきえが、
もうテンション最高潮で飛び出してきた。
「きゃーーー!!
クロエ!
ジェシカちゃん大好きなのねぇぇぇ!!
かわいい〜〜〜!!!」
スマホを構え、
連写、連写、連写。
「ジェシカちゃん、ちょっとそのまま!
クロエ、いい顔してる〜〜!!」
ジェシカは笑いながら必死にクロエを抱え、
クロエはさらにテンションが上がり、
ゆきえは「最高!最高!」と叫び続ける。
しげるも苦笑しながら言う。
「おいおい……クロエ、ハルより喜んでないか?」
ハルは苦笑い。
「……まあ、いつものことだよ」
そして——
タケシだけが、ぽつん。
「……なあ、俺、今日ここに来たよな?」
誰も聞いていない。
「おーい……俺、透明人間じゃないよな……?」
クロエはジェシカにべったり。
ジェシカは笑いすぎて涙目。
ゆきえは写真を撮りながら大騒ぎ。
しげるは「いい絵だなぁ」と満足げ。
ハルはちょっと複雑な笑顔。
タケシだけ、完全に蚊帳の外。
「……帰ろうかな」
タケシが小声でつぶやく。
ハルが肩を叩く。
「タケシ、ドンマイ」
「ドンマイじゃないよ……」
タケシは下を向き、
ほんの一瞬、沈黙が落ちた。
ぽたり、と涙が落ちた。
その瞬間——
クロエの動きが、ぴたりと止まった。
ジェシカの胸の中で、じゃれていたクロエが、
ちらり、とタケシの方を見る。
(……泣いてるの?)
ゆっくりとタケシの前に歩いていった。
タケシが顔を上げるより早く、
クロエはその頬を——
ペロリ。
一度だけ。
短く。
「……えっ」
タケシは固まった。
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クロエはもう興味なさそうに
ジェシカの方へ戻ろうとした——が、
タケシは両手を握りしめて叫んだ。
「や、やったぁぁぁぁぁ!!
ジェシカの言っていた、あれだ!
クロエが!俺の顔を!舐めたぁぁぁ!!」
ジェシカが、泣きながら笑い転げる。
「タケシ、それ…それ、義理よ…義理ペロだよ!!」
ゆきえも涙をこらえて大笑い。
「タケシくん、よかったわねぇ〜!
クロエ、優しいからねぇ〜!」
しげるも肩を震わせながら言う。
「タケシ君……僕は好きだよ……」
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タケシには、もう何も聞こえない。
涙と笑顔が混ざった顔で叫んだ。
「義理?それがどうした!!
クロエに舐められたら勝ちなんだよ!!」
タケシは、勝ち誇ったように拳を突き上げた。
「わお~~~」
(誰と勝負してるのかな?)
その姿を見て、
ハルは小さくため息をついた。
(……また一人、クロエの虜になった)
タケシの大爆発をよそに、クロエは一瞬、玄関の外を見た。
その瞳の奥に、かすかな歪みがあった。
まるで、遠くの気配を見るかのように。




