第13話 再びネムロが……?
清瀬先生の紹介が終わると、
ゆかり先生が軽く会釈して言った。
「清瀬先生、あとはお願いします」
清瀬先生は一歩前に出て、
黒板の前で静かにクラスを見渡した。
「それでは……一時間目、算数を始めましょうか」
清瀬先生が黒板の前に立つと、
教室の空気がすっと引き締まった。
「今日は、みなさんの“今の力”を知りたいので……
まずは、簡単なテストをしてみましょう」
——テスト。
その言葉に、教室中から わかりやすいほどのため息。
「えぇ〜……」
「今日テストって聞いてないよ……」
「まだ頭起きてないんだけど……」
ゆかり先生が、ぱんっと手を叩いた。
「みんな、大丈夫よ〜!
これは “できる・できない” を見るテストじゃなくて、
清瀬先生が、みんなを知るためのテストだからね。
ほら、いつもの力でやればいいのよ〜」
その声に、子どもたちの肩の力がふっと抜ける。
清瀬先生が、ゆかり先生へ 小さくグッドサイン。
ゆかり先生は、照れたように「えへへ……」。
「ゆかり先生が言うなら……」
「まあ、やるかぁ……」
子どもたちはしぶしぶ、でも安心した顔で
テスト用紙を受け取っていった。
ハルもプリントを手に取りながら思う。
(昨日の胸のモヤモヤはまだ残っている)
(でも……この空気は、なんだか前より温かい)
この教室の空気は、
確かに“前より少しだけ”温かかった。
「焦らなくて大丈夫です。
みなさんの “今” を知るためのテストですからね。
間違えても恥ずかしくありませんよ」
清瀬先生の落ち着いた声が、教室に静かに広がる。
(……本当に、いい先生だな)
ハルは鉛筆を手に取り、
一問目に目を落とした。
そのとき——
胸の奥に、ほんの小さなざわつきが生まれた。
理由はわからない。
痛みでも、不安でもない。
ただ、胸の奥で何かが“そっと動いた”ような感覚。
(……なんだろう)
ハルは小さく首をかしげ、
静かな教室の中で問題文を読み始めた。
算数のテストが終わると、
清瀬先生は落ち着いた声で言った。
「では、このまま社会のテストに入りましょう」
「えぇぇぇ……!」
教室中にため息が広がる。
続けて国語、理科、そして最後は作文。
「今日って……テストの日だったっけ……?」
「先生、もう無理……」
「まだやるの……?」
子どもたちの声は、どんどん弱っていく。
そのたびに、ゆかり先生が
ぱんっと手を叩いて言う。
「みんな〜、落ち着いて〜!
これは“できる・できない”を見るテストじゃないのよ〜。
清瀬先生が、みんなのことをもっと知りたいだけだからね〜。
はい、深呼吸〜」
その声に、子どもたちはしぶしぶプリントを受け取る。
清瀬先生は、ゆかり先生に向かって
何度も小さくグッドサインを送った。
ゆかり先生は照れ笑いで返す。
そのやり取りに、クラスは微妙に笑った。
ハルも、胸の奥に
小さなざわつきを覚えていた。
(……なんでだろう)
清瀬先生は優しい。
ゆかり先生も明るい。
クラスの空気も悪くない。
なのに、
一日中続くテストの合間に、
ふとした瞬間だけ、胸の奥がひっかかる。
理由はわからない。
ただ、何かが“いつもと違う”気がした。
テストも終わり夕日が職員室に射すころ
ゆかり先生が答案をまとめていると、
清瀬先生がふと立ち止まった。
「……次は、もう少し“無駄”を減らしましょうね、ゆかり先生。
子どもたちが不満を言わないうちに、テストを実施しましょう」
微笑みながら去っていく背中を見送りながら、
ゆかり先生は、胸の奥がわずかにざわつくのを感じた。
(……“無駄”って、私の話しのこと……?
それとも、子どもたちの表情を待つ時間……?)
言葉にできない小さな引っかかりだけが、
生徒とのつながりを、
そっと遠ざけていった。
教員室は静かだった。
カチ、カチ、カチと時計の音が響く。
その静けさを裂くように、
突然、校内放送が流れた。
「……検知。検知。
教員室にて異常を検知。
負の波長が、夢界で確認されました。
……夢界は、見逃さない」




