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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第41話 告白

――――カイ視点――――


 夜の軍病院の庭。

 月明かりに照らされたベンチに腰を下ろしたカイは、胸の奥に渦巻く想いを抑えきれずにいた。 目の前の病棟には、あの日からずっと気にかけてきた女が眠っている。

 クレア――敵であり、今は捕虜であるはずの彼女に、なぜ自分はこんなにも心を奪われているのか。


「……最初は、敵だと思っていたんだ」


 カイは小さく独り言ちる。


 思い返す。地下での戦い。

 瓦礫の下敷きになりながらも、必死に知恵を絞り、グラビオンに立ち向かおうとしたクレア。

あの時、自分を置いて逃げろと言った彼女に――なぜか逆に「守りたい」と思った。


 それからの毎日。

 骨折でベッドに縛り付けられたクレアの見舞いに通う自分。

 最初は「捕虜の監視だ」と言い訳していた。けれど、会話を重ねるうちに、その鋭さの裏に人間らしい弱さを見つけてしまった。

 無理に強がり、弾切れの銃を手にして「ついてないな」と苦笑する姿。

 情報を白状しながらも、自分を気遣う視線。

 それは兵士でも捕虜でもなく、ただの一人の女性の顔だった。


「気づけば……会いに行く理由を探していた」


 カイは自嘲気味に笑った。


 そしてドミナス鉱山への攻撃命令が下った日。

 「しばらく見舞いに来られない」と伝えた自分に、クレアは静かに微笑み、「早く帰ってきて」と言った。

 敵でも捕虜でもなく、自分を“待っている”人の顔で。

 その一言が、ずっと胸に残っている。

 会話を重ねるたびに、彼女の冷たい仮面の裏にあるものが見えてきた。

 帝国の大佐としての冷酷さじゃなくて、一人の人間としての後悔や、諦めや、ほんの小さな優しさ。

それを知るたびに、もっと彼女を知りたいと思った。


 そして今日、帝国の工作員による暗殺未遂。

 自分の中でクレアのことを強く守りたいと願う気持ちを認識した。


 ミリアとは違う。

 ミリアの強さは、俺を委縮させるだけだったけれど……クレアは違う。

 彼女の強さは、自分の弱さを隠すためのものだってわかったから。

 その姿に俺は――どうしても目を逸らせなくなった。


「俺は、もう気づいてるんだ」


 月明かりの下で、俺は小さく呟いた。

 これは憧れでも、同情でもない。俺はクレアに惹かれている。


 彼女が敵か味方かなんて、もうどうでもよかった。

 俺にとって大事なのは――彼女が確かに“ここにいる”ってことだけだった。


――――


 翌日、カイは再びクレアの元を訪れた。

 クレアはベッドにもたれながら読書をしていたが、それを中断た。


「また来てくれたのね。監視かしら?」


 本を閉じたクレアは、淡い微笑を浮かべる。

 軽い冗談だったが、カイはそれを冗談と受け止める余裕が無かった。


「……大事な話があるんだ」


 カイは首を振った。声が震えていた。


「俺は、監視のために来てるんじゃない。あんたに会いたいから来てるんだ」


 クレアの瞳が揺れた。

 けれど、すぐに皮肉めいた笑みを作る。


「敵を好きになるなんて、ずいぶん甘い」

「俺には敵味方なんて関係ない!」


 カイは声を荒げた。


「クレアが地下で俺を置いていけって言ったとき、どうしてもできなかった。助けたかった。……それからずっと、クレアのことが頭から離れない」


 病室に沈黙が落ちる。

 カイの顔は真っ赤で、握った拳が震えている。


 クレアは目を伏せ、小さく息を吐いた。


「……私は帝国の人間だ。捕虜であり、敵だ。お前と並んで歩く資格なんてない」

「そんなの関係ない!」


 カイは一歩踏み出し、ベッドの傍らに立つ。


「俺は、クレアがここにいてくれることが嬉しい。それだけでいい。だから……俺は、クレアが好きだ」


 クレアの目に光が宿った。

 それは困惑とも、涙ともつかない微妙な輝き。

 彼女はしばしカイを見つめ、やがて小さく笑った。


「青臭いな……本当に。だが――」


 微笑の奥に、ほんのわずかな震えがあった。


「嫌いじゃない。その真っ直ぐさも、馬鹿さ加減も」


 カイの心臓が大きく跳ねた。

 その瞬間、二人の間にあった“敵と味方”の境界は、全て溶けていった。



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