第34話 派閥対立
夜営地は冷え込み、かがり火の赤い炎が兵士たちの影を揺らしていた。前線に布陣した帝国軍の幕舎の一角、緊張と不安が漂っている。
若い新兵ハルトは、火を見つめながら震えていた。
「……兄貴たちに畑を任せてきたけど、俺、帰れるかな……」
古参兵リューディガー伍長が、鍋をかき混ぜながら苦く笑う。
「震えてもいい。だが足は止めるな。止まった奴から死ぬ――それが戦場だ」
そこへ血気盛んなオスカー兵曹が声を荒げる。
「腰抜けども! 穏健派の連中みたいに下がってばかりじゃ勝てるものも勝てん! 明日も怯えて尻を向けるつもりか!」
それに穏健派寄りのコンラート二等兵が口を挟む。
「……でも、この戦いだって将軍たちの派閥争いの延長だろ。俺たちの命もただの道具じゃないか」
リューディガーは火の粉を払いながら一喝する。
「黙れ! 戦場で声を張れば弾より早く命が飛んでくる!」
兵士たちの小競り合いをよそに、本陣では主戦派の将軍ラインハルトが部下から報告を受けていた。
「ブルクハルト閣下の部隊、布陣位置をさらに後退させております。前線への意欲が感じられません」
ラインハルトの眉が跳ね上がる。
「何を考えている……! 奴らは戦う気があるのか!」
その直後、彼はブルクハルトを呼び出し、やってきたブルクハルト怒気を帯びて対峙する。
対するブルクハルトは涼しい顔で応じる。
「無闇に前に出れば兵が潰えるだけだ。我らは防衛戦を任されている。堅陣を敷くことこそが務めだ」
ラインハルトは机を拳で叩いた。
「防衛など腰抜けの言い訳だ! ここで敵を迎え撃ち、一気に叩き潰す! それが帝国軍の意地だ!」
幕舎の外でその声を聞いた兵士たちは顔を見合わせた。
オスカーはにやりと笑う。
「見たか! 閣下は勇ましい。これで勝てる!」
だがコンラートは唇をかみ、低く呟いた。
「勝ち負けの前に、俺たちが生き残れるかどうかだ……」
炎の揺らめきに照らされる兵士たちの顔は、決意と恐怖と疑念に裂かれていた。
主戦派と穏健派――上層部の対立は、確実に兵の心にも影を落としていた。




