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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第31話 帝国の会議

 帝都・軍務院本会議室。

 玉座の間を改装した軍議の場。

 燭台が揺らめく中、主戦派と穏健派の将軍や貴族たちが睨み合うように並んでいた。


「――奇襲は失敗した。プロメテウス機関の精鋭が王国の軍工廠を襲ったが、フレームの奪取も、破壊すら果たせなかった」


 報告の言葉が投げられると、場の空気が重苦しく沈んだ。

 主戦派の旗頭、レオポルト将軍が血走った目で立ち上がる。


「だからこそ、もはや退路は断たれたのだ! 我らは必ずやマナダイト鉱山を死守し、王国の侵攻を撃ち砕かねばならん!」


 声は震えていた。失敗が重なり、彼自身も窮地に追い込まれていることを悟っているからだ。

 燭台の明かりに照らされた長卓には、軍の高官や元老院の重鎮が顔を揃えていた。壁には古びた戦勝記念の旗が掛けられているが、その誇らしさはもはや色あせ、場の空気は重苦しかった。


「――ドミナス鉱山を奪われれば、帝国の心臓を抉られるに等しい」


 強硬な口調で声を張り上げたのは主戦派の将軍、ブラウエルだった。拳で卓を叩き、椅子の背に体を預ける諸侯たちを睨め回す。


「ここで退けば、帝国は弱腰だと諸侯に嘲られ、民は不安に駆られる。総力を挙げて防衛せねばならん!」


 対する穏健派の文官、リーメルは眉間に皺を寄せる。


「兵の多くは長期戦に耐えられませぬ。加えて徴発の負担で地方は疲弊しております。ここでさらに兵を引き抜けば、各地で反乱が起こりかねません。別のマナダイト鉱山の産出量を増やすことで、ドミナス鉱山を失ってもなんとかなるでしょう」


 彼は冷静に諭そうとしたが、その声音はどこか弱々しい。


「外交交渉と局地防衛で持ちこたえ、帝国の体力を温存すべきです。無謀な総力戦は――」


「臆病風に吹かれたか!」


 ブラウエルが即座に遮った。


「敵は必ず鉱山を狙ってくる。それを迎え撃ち、叩き潰せばよい。むしろ好機だ!」


 彼の言葉に呼応するように、主戦派の将軍たちが頷き、机を叩いて賛意を示す。


「しかし……」


 とリーメルはなおも言い募ろうとしたが、今度は元老院議長の冷ややかな声がかぶさった。


「鉱山を失えば、帝国は一夜にして瓦解する。いかなる犠牲を払っても守らねばならぬ。それが多数の意見である」


 冷静な声で対抗したのは穏健派のエッカルト侯爵。


「プロメテウス機関の工作失敗は痛いが、だからといって全面決戦を選ぶ必要はない。守りを固めつつ、外交で時間を稼ぐべきだ。帝国にはまだ余力がある」


「余力だと?」


 レオポルト将軍が机を叩き、周囲の主戦派が声を荒らげる。


「敵は新兵器を手にしたのだぞ! このままでは帝都の門に奴らの旗が立つ! 帝国の威信を守るには、戦うしかない!」


 怒号が飛び交い、会議は混沌とする。


「……決する」


 やがて皇帝が静かに言い放つ。


「帝国はマナダイト鉱山を死守するため、全軍を動員する」


 お飾りで威厳も無い皇帝は、主戦派の不満が暴発することを恐れ、そう決定したのであった。

 決議を受け、レオポルト将軍は深く頷き、己の拳を固めた。

 敗北すれば失墜、勝てば栄光の復活。彼に残された道は一つしかない。


 その背を、エッカルト侯爵は冷たい瞳で見つめていた。


――墓標を並べるのは、そちらだ。主戦派よ。


 やがて、形式的に皇帝の御璽が捺される。


――総力防衛戦、決定。


 リーメルは目を伏せ、唇を噛む。


(これで帝国は破滅の坂を転がり落ちる……だが、止められなかった)


 一方、ブラウエルら主戦派は勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。彼らの胸中には「戦こそが帝国を立ち直らせる」という、もはや信仰にも似た確信しかなかった。


 議場を出た後、重苦しい空気はそのまま廊下に持ち込まれていた。

 地図と作戦資料を抱えた主戦派の将軍たちは、別室に集まるとすぐに扉を閉ざし、荒い声を交わした。


「奇襲も、プロメテウスの工作も潰えた……。だが今さら後戻りはできん」

「そうだ、我らが失敗した以上、ここで勝たねば処罰は免れん」

「鉱山を守り抜けば、帝国の存立と我らの面目が保たれる!」


 言葉の裏には焦りがにじんでいた。しかしそれは恐怖ではなく、彼らを結束させる鎖でもあった。背を叩き合い、互いに奮い立たせる。


「全軍を前に出す。血路を開いてでも王国を叩き潰す!」


 その叫びに応じるように、将官たちの目には一種の狂気じみた光が宿っていた。


  一方で、別の会議室に控える穏健派の面々は、冷ややかな沈黙の中で小声を交わしていた。


「彼らに正面を任せればよい。自ら望んで突っ込むのだからな」

「ふん、勝てるものか。もし敗れれば、主戦派の影響力は地に堕ちる」

「我らは予備兵として控え、戦況を見極める。それで充分だ」


 彼らの声色には焦りはなかった。むしろ冷徹な計算が支配していた。帝国の命運よりも、次の政務院を自分たちが握ることを見据えていたからだ。


 主戦派は背水の陣として血の結束を誓い、穏健派はその血を利用して次の権力を得ようとする。

互いの思惑は異なるが、結果として帝国は最大規模の兵力をマナダイト鉱山周辺へ集めることとなった。

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