第13話:テルノミクス(11) 魂の解放へ
夜の財務大臣室。
テルは一人で執務室の金庫を開けた。
中には、着任初日から鍵をかけて保管してきた、一つのファイルがある。
茶色い表紙に、手書きのラベル。
「WGIP ― 戦後思想統制の全貌」。
テルはそれを取り出し、机の上に置いた。ページを開くと、GHQ発の内部文書のコピー、戦後の教科書検定の記録、主要メディアへの資本流入の系譜——日本人の「自己像」を意図的に書き換えてきた、七十年以上にわたる工作の痕跡が並んでいた。
テルは窓の外を見た。東京の夜景が広がっている。あの光の一つ一つに、人の生活がある。今日、ようやく「食えるようになった」と笑った望月のような家族が、何百万世帯もある。
カネの鎖は解いた。
しかし、まだ終わっていない。
経済という血液は回り始めた。しかし、その血を受け止める「器」——日本人の精神そのものは、まだ縛られたままだ。
円安の地獄で、外資に買い漁られた土地がある。失われた文化財がある。二束三文で手放された老舗がある。それを取り戻すには、法律と資金だけでは足りない。国民自身が、この国の歴史と誇りを取り戻さなければならない。
「……次は、これだ」
テルは、ファイルを閉じた。
霞が関の夜空の向こうに、まだ見えない一本の鎖がある。貨幣の鎖より太く、技術の鎖より古く、そして最も深く、日本人の心の奥底に食い込んでいる鎖。
【思想の鎖】。
戦後最大の呪いを解くための戦いが、今夜から静かに幕を開ける。




