第13話:テルノミクス(9) 観光の質的転換 ― 静寂の京都
京都、東山。
円相場が一ラル=二〇〇円台で安定した頃、古都の風景もまた、劇的な変化を遂げていた。
三年前、タピオカ容器と異臭に染まっていた石畳の路地は、今、別の顔をしていた。
静かだ。
人は来ている。しかし、かつてのオーバーツーリズムの喧騒とは違う。少人数で、しっかりと「本物」を見ようとする人間だけが残った空気がある。
理由はいくつかある。
円の適正回帰により、日本は「激安の国」ではなくなった。加えて、政府が導入した「観光税」と「混雑地域入場規制」が、単価の安い大量観光客を排除し、高単価な文化体験を求める旅行者を引き込む構造に変えていた。
老舗の和菓子屋の主人が、外国人のカップルに抹茶の点て方を英語で説明している。かつて団体バスで押し寄せ、記念写真だけ撮って去っていった観光客が、今は一人一万円の「和菓子体験」に三時間かける客に置き換わっていた。
「Beautiful... This is the real Japan.」
アトランティスの老夫婦が、静かに枝垂れ桜を見上げている。
安売り(ダンピング)観光からの脱却。
日本は、尊厳と豊かさを取り戻していた。
外資によるバーゲンセール的な国土の買い漁りも、円高と遅ればせながら成立した「重要土地取引規制法」の施行によって、沈静化しつつあった。法整備の遅れはテルの痛切な反省だが、その分だけ、失われたものの代価を払いながら、その土地で最善を尽くす覚悟だった。




