第13話:テルノミクス(7) カイの影 ― 自衛隊OBの動員
しかし、どうやって。
都市生活者の烏合の衆が、どうして短期間で食料生産部隊として機能したのか。その秘密は、一枚の回想映像の中に隠されていた。
テルノミクス開始から半年後。あの農水省の絶望的な会議の翌朝、テルは一本の電話をかけた。相手は、弟のカイだ。
その日の夕方、カイは一人の男の自宅の前に立っていた。
郷田源造、元陸自一等陸曹。定年退職後は田舎で農業を営んでいる。
カイはその玄関に立ち、深々と頭を下げた。
「お頼みしたいことがあります」
郷田は、かつての教え子に当たる将官から頭を下げられたことに、目を丸くした。
「国を守るには、まず腹を満たさなきゃならん。あんたらの統率力で、素人の群れを『食料生産部隊』に変えてくれ。引退した農家の老人に教えを乞い、それを参加者に叩き込んで、荒れ地を耕してほしい」
郷田は、しばらくカイを見た。目の前の男が、本気であることは分かる。
「……給料は?」
「最低賃金以上は出す。ただ、それ以上の見返りは約束できない」
「……農業は、一日でできるものじゃない」
「知っています。だから、あなたに頼んでいる」
郷田は、長い沈黙の後、答えた。
「……声をかけてみる。同じ気持ちの元陸曹が、何人かいるはずだ」
こうして組織された「農耕部隊」は、自衛隊仕込みの規律と、地元の老農家から受け継いだ知恵を融合させ、日本中の荒れ地を、半年で「食えるもの」が育つ農地へと変えていった。
カイは前線に出ない。だが、確実に、国の腹を守っていた。




