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第13話:テルノミクス(5) 高圧経済の正体 ― 賃上げと投資の循環

 では、なぜ景気は良くなったのか。答えは、大田区の商店街の、ごくありふれた光景の中にあった。


 来々軒は人手不足だった。

 客は増え、売上は伸びているが、人が足りない。店頭の「時給一二〇〇円」の求人は、誰も見向きもしない。JGPで国が一三〇〇円の仕事を保証している今、それ以下の時給でキツイ飲食の仕事をする者などいないのだ。小林は意を決して、マジックで数字を書き換えた。


 時給 二五〇〇円。


 利益は削られる。しかし、店を開けられなければ元も子もない。

 その張り紙を見て応募してきた大学生のケンジは、初任給の入った封筒を握りしめ、同じ商店街にある家電量販店『サトウ電気』の前に立っていた。


「これ、ください! 一括で!」


 最新型のゲーミングPC。ケンジが店員に告げた言葉に、社長の佐藤がホクホク顔でレジを打った。


「毎度あり! いやあ、最近は若い子が景気よく高いものを買ってくれるから助かるよ」


 しかし佐藤自身も、悩みを抱えていた。注文が増えているのに、配送と設置工事が追いつかない。高時給のバイトを雇う体力はないが、一人では回り切らない。

 佐藤は決断した。貯め込んでいた内部留保を吐き出す。

 注文したのは、最新鋭の在庫管理システムと、JDM製の小型配送ドローン。そして重量物運搬アシストスーツだ。

 融資の手続きのため銀行へ行くと、担当者が静かに言った。


「金利は〇・〇%です。氷室総裁の指値オペが効いていますので」


 佐藤は拍子抜けしながら書類にサインした。ゼロ金利。借りない理由がない。

 その投資がJDMをはじめとするメーカーの売上となり、さらなる技術革新を生む。「人手不足(高圧状態)」と「ゼロ金利(麗華のYCC)」の二つが同時に作用し、省力化投資を強制的に引き出すことで、生産性が劇的に向上していた。

 麗華の金利防衛が、霞が関の抽象論ではなく、サトウ電気の融資書類という形で、実体経済に届いていた。

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