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第13話:テルノミクス(4) 米粉革命 ― ラーメン屋の再起

 大田区、下町の商店街。

 かつてシャッターが降りた『来々軒』の前に、今は長蛇の列ができていた。

 看板が変わっていた。


 『来々軒 米粉ヌードル専門店』。


 小林健一が厨房で汗を流しながら、大きな鍋を揺する。三年前、輸入小麦の価格暴騰でシャッターを下ろした男が、今はあの頃よりも忙しく立ち働いていた。

 隣で作業する助手が、注文票を読み上げる。


「小林さん、醤油ヌードル三つ、塩ヌードル二つ!」


「はいよ!」


 小麦が入らなくなった時、小林はしばらく途方に暮れた。だが、ある日、米農家の友人から「余った米、使ってくれないか」と連絡があった。円安で肥料が高騰し、採算の取れなくなった農家が、とにかく自分の米を消費してくれる先を探していたのだ。

 小林は試作した。米粉でヌードルを作る。最初はボロボロで、とても出せたものではなかった。何十回も配合を変え、製麺機の設定を変え、茹で時間を変えた。

 そしてある朝、できあがったのは、小麦のラーメンとは全く異なる、モチモチした弾力のある麺だった。


「……小麦が入らねえなら、米を使えばいい。日本の米は世界一だ」


 評判は口コミで広がった。特に、小麦アレルギーを持つ子供たちの親から、感謝の声が殺到した。「うちの子、ずっとラーメンが食べられなかった。今日初めて、笑顔でラーメンを食べた」というメモを、ある日母親が持ってきた。小林は、その日だけ厨房で涙をこぼした。

 円安という嵐が、一軒の店を閉め、そして全く別の形で再び開かせた。

 食料自給率の向上と、新産業の創出が、霞が関の会議室ではなく、下町のラーメン屋の厨房で、静かに実現されていた。


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