第13話:テルノミクス(3) 望月一家の復活 ― 2000円のハンバーグ
横浜市、郊外のファミリーレストラン。
週末の昼下がり。入口まで行列ができるほどの賑わいの中に、望月雄介(四十二歳)一家の姿があった。
三年前、物価高と失業の恐怖に怯え、スーパーの半額シールを奪い合っていた彼らの姿は、もうそこにはない。案内されたボックス席。小学五年生になった息子が、メニューを開いて目を輝かせている。
「父ちゃん、僕、国産牛のハンバーグステーキ! あと、デザートにパフェも頼んでいい?」
「ああ、いいぞ。好きなだけ食え」
雄介は笑顔で答えた。その表情には、かつての疲労感や焦燥感はない。作業着の袖から覗く腕は以前より太くなり、労働者としての自信に満ちている。
彼は今、JDM(日本ドローン製造)の正規雇用社員として働いていた。テルノミクスの第二の矢、JGPによって職業訓練を受け、ドローン整備士の資格を取得したのだ。
雄介の給料は、この三年間で一・五倍に跳ね上がっていた。
妻が、注文用のタブレットを操作しながら、ふと真顔になった。
「でも、やっぱり高いわね……。ハンバーグセット、二千円もする」
「まあな。でも、母さん、これを見てみなよ」
雄介は、レシートの末尾の一行を指差した。
消費税 0円。
「この一行が、どれだけデカイか。それに電気代が下がったのが本当に助かってる。先月の請求書見て、間違いかと思ったもの……って先月も言ってたな、そういえば」
妻は苦笑した。
「物価は高い。でも、税金はなく、光熱費は下がって、給料がそれを上回るペースで増えている。昔はさ」
雄介は水を一口飲んで、しみじみと言った。
「スーパーに行っても『買えない』って絶望感しかなかった。値札を見るのが怖かった。でも今は違う。『働けば、買える』。頑張れば、家族に美味いものを食わせてやれる。……当たり前のことなんだけどな。その当たり前が、こんなに嬉しいなんてな」
息子が「早く来ないかな」と言いながらスプーンを鳴らしている。その横顔を見て、雄介は目の奥が熱くなった。
「カネがないから我慢する」時代は、終わりを告げようとしていた。




