第13話:テルノミクス(2) 強制された国内回帰 ― JDMと町工場の逆襲
名古屋港、臨海工業地帯。
かつて震災の津波で壊滅し、その後も長く瓦礫置き場として放置されていた広大な埋立地。今、その場所は、二十四時間眠らない光の城塞へと変貌していた。
『日本ドローン製造(JDM)第一工場』。
東京ドーム十個分に及ぶ巨大な敷地に、最新鋭のスマートファクトリーが立ち並ぶ。工場長の山下は、視察に訪れた五菱銀行の融資団を案内しながら、興奮を隠しきれない様子だった。
「ご覧ください! これが日本の底力です!」
ガラス張りの通路から見下ろす生産ライン。無数の多関節ロボットアームが、目にも止まらぬ速さで部品を組み付けている。その動きは、機械的というよりは、熟練の職人のような滑らかさと有機的な連携を見せていた。サクが開発した生産管理AIと、豊名自動車が培ってきた「カンバン方式」が融合した、究極の生産システム。
「現在、ラインはフル稼働です。それでも注文に追いつかない。三ヶ月待ちの状態です」
銀行員の一人が、不思議そうに尋ねた。
「しかし工場長。円安で原材料費は高騰しているはずでは? なぜこれほど強気でいられるのです?」
山下はニヤリと笑った。
「ええ、輸入コストは上がりました。ですが、それ以上に売値が安いんです。一ラル=三六〇円。この超円安レートなら、我々の作るドローンは、性能は世界一なのに、価格は万里製の粗悪品より安く出せる。世界中のバイヤーが『売ってくれ』と札束を持って日参してきますよ」
だが、テルの狙いは、単に輸出で儲けることだけではなかった。山下はさらに続けた。
「本当の変化は、そこじゃありません。もっと足元、国内で起きていることです」
彼は、部品の調達リストを見せた。
「三年前までは、モーターもチップも、安い万里製を使っていました。でも円安で輸入コストが倍になった。そこで我々はどうしたか。『高いなら、国内で作らせればいい』と腹を括ったんです。大田区の旋盤屋、東大阪のバネ屋、福井の繊維屋……今まで『コストが高い』と切り捨てられてきた彼らに、我々は頭を下げて発注しました。そうしたら、どうだ。彼らは、海外製とは比べ物にならない精度と耐久性を持った部品を、意地になって作ってきてくれた」
山下の目に、光るものが浮かんだ。
「円安という壁が、国内のサプライチェーンを復活させたんです。今、この工場で使われている部品の九割は、メイド・イン・ジャパンです。我々は、日本中の工場に、血液を送り込んでいるんです!」




