エリーのお泊り会2
ここまで書き溜め分に加えて、書き足してきましたけれど、ついに底をつきました。終わりまであと四から五程度のはずですのに。これからは一話が三日から、長くて一週間程度かかると思います。すみません。
パルムがうっすらと目を開けたのは何もお手洗いに行きたくなったわけでもなく、強いて理由を上げるとするなら暑かったからだった。
自分が何処にいるのか、数瞬の間思いつかなかった。
自室のベッドだと気付いたのは、単純に見知った天井の染みが目に入ってきたからにすぎない。
確かベッドで横になって、それから……。
記憶はそこで途切れている。
身体の上にはかけた覚えのない毛布が掛けられていて、暑さの原因はこれかと気付く。
それにしても暑い。
とにかく毛布を払おうと身をよじ……。
「……あれ?」
れなかった。
上半身だけでなく、全身何かで固定されたようにぴくりとも動かない。
ここにきてパルムはようやく自分の置かれた状況が異常だと認識し、虚ろだった意識は完全に覚醒した。
首から上が動くことを確認すると、胸元へ視線をはわす。
「アリマリ。お前たちだろう、出てこい」
先程から胸の上で何かが動く気配がする。
毛布の下に隠れているのでわからないけれど、こんなことをしでかすのはフェアリーズしかいない。
「なんのつもりだか知らないけれど、もう悪戯はやめて早く解放してくれ」
「……だめです」
「え、エリー……!?」
「夜分遅くお邪魔しています、です」
胸と毛布の隙間から顔を覗かせたエリーは少しはにかんだ笑顔を見せた。
突然のことに再び思考が混乱してしまう。
視界一杯に広がった少女の顔に釘付けになる。
エリーが胸の上でもぞもぞと動くとくすぐったい気持ちになるけれど、身動きの取れない状態では押しのけることもできない。
というか一体全体どうして身体が動かないんだ。
「これはエリーがやったのか?」
「私だけじゃありません。アリとマリも手伝ってくれました」
「やっぱりか!」
「寝ているパルムさんを紐でぐるぐる巻きにしてベッドにくくりつけたのです。苦労しました」
「そんな、私ってすごいでしょみたいな顔されても褒めるところは一つもないからな」
「パルムさん、全然起きないからそういう意味では簡単でしたよ」
「とりあえずこれを外そうか。話はそれからだ」
「……いやです」
「え、エリー……?」
先程から感じるこの暑さはなんだろうか。
エリーから感じる鼓動や吐息が熱を帯びているようだ。
小さな身体を密着させ、昼間とは違った雰囲気のエリーがじっと見つめてくる。
「私、覚悟してきたのです」
「か、覚悟……ってどんな、いや、そうではなくて……」
ちょっと待って。何この状況!?
エリーがさらに顔を寄せてくる。
「私、今とてもお見せできない姿をしているのです」
「み、見せられない格好って……ごくっ」
それは見てみた、ではなくて。
脳裏に浮かぶあられもない姿をどうにか消し去ろうとするけれど、エリーから香るなんともいえず良い匂いに邪魔される。
まるで楽園にでも誘う天使のような、そんな印象さえしてくる。
「パルムさんだけなら、恥ずかしいけれど、すごく、恥ずかしいけれど、見せても良いのですよ」
良いのですよと言われても、手首の一つも動かないのにどうやって、ってだから違う。
このままずるずるといってしまいそうな自分の自制心の弱さにパルムは嘆く。
「こんなエリーを見たらご両親が悲しむぞ。すぐに縄を解くんだ。そして人質、じゃなかった俺を解放してくれ」
「私、憧れていたのです」
「聞いてくれ頼むから」
「出会って恋に落ちた恋人が実は極悪人で散々弄ばれた挙げ句に捨てられる話」
「何から言えばいいのかもう訳がわからないのだけれど、まず俺とエリーは恋人ではないし俺は極悪人でもないし散々弄ばないし挙げ句に捨てはしない!」
言っていて気付いた。
それは以前マリが話していた王宮と姫の内容だと。
こんな少女にまで浸透しているなんて、すぐにでも発禁指定にしないとソルティオが崩壊するかもしれない。
いや、割と本気で。
「私、パルムさんになら弄ばれても良いの、です」
「俺をそんな色男みたいにいうのは色々と間違っているからな!」
「……パルムさん」
「ちょ、ちょっとエリー、待って」
エリーとの距離はすでにないに等しかった。
鼻先を擦り寄せてくるエリーの、やや瞳孔が開いた瞳が正直だいぶ、いやかなり怖い。
このままだと放火の容疑者だけでなく別の容疑までかかりそうだ。
……もうかかっているというのは無しにしてくれよ。
「覚悟……決めてください、です」
「……っ」
エリーが目を閉じる。
もう駄目なのか。
具体的に何を諦めることになるのかは置いておいて。
そう思った時、部屋の扉が勢い良く開いてマリとアリが飛び込んできた。
「誰もそこまでやっていいなんて言っていませんよ!」
「それはさすがに駄目だってエリー」
「……お前たち、何時から聞いていた!?」
「最初から」
「です」
悪びれることなく平然と言い放ってきた。
間一髪というタイミングに助かったという思いと、そもそもの原因もアリとマリだということで、つまりは相殺されーーるわけもない。
「アリもマリも無粋です。これから禁断の逢瀬を重ねようとしていた男女を引き裂くなんて」
「エリーが今日のことを謝りたいっていうから協力したのにそれはあんまりでしょう」
「そうそう。私も怒っちゃうからね」
「それにそんな謝り方はないでしょう」
「身体を使って謝るのは何時の時代でも鉄板。お約束、です」
「大体、今日一日パルムさんと一緒にいたのにずるいですよ」
「はいマリの本音きた。怖いよエリー、また叩かれるかも」
「平気です。私、パルムさんと約束の契りを交わしましたから、です」
ベッドの上に上がりこんだアリとマリが毛布を挟んでエリーと言い合いを始める。
とばっちりはもちろん、パルムへも飛び火してきた。
「パルムさん本当ですか!?」
「……ぶっ、嘘だっ!」
「エリーと契ったの?」
エリーを押し退けて詰め寄ってくる。
「パルムさん!」
「パルムさん!」
「パルム!」
エリー、アリ、マリ。
三者三様ーーエリーは妄想の世界へ、アリは興味津々といったように目を輝かせ、マリは今にも卒倒しとうに息を荒げてーーの表情を目前にして、パルムはここにきて、切れた。
「……いい加減にしろおおおお、この耳年増娘えええええ」




