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異世界建築物語  作者: 神尾龍平
第一章 妖精の犬小屋
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妖精犬の意味

 何だろう。


 アリもマリも先程から妙に絡んでくる。

 悪い気はしないのだが、普段から悪戯をするフェアリーズを見ているだけに落ち着かない。

 その内、アリにも「私も私も」と云って膝に座られ、最終的には二人を膝に乗せる形になった。

 何故か嬉しそうにしている妖精たちに、パルムの気持ちも徐徐に落ち着きを取り戻してくる。


 もしかして妖精たちは自分の気持ちに気が付いているのではないだろうか、とパルムは思った。

 妖精種族のことは未だ未知の部分も多い。

 相手の感情を読み取る能力が備わっていても不思議ではない。

 余計な心配をかけたくないと、そう思っていた自分が何だか急に恥ずかしく思えてきた。

 

 彼女たちは彼女たちなりにパルムを心配してくれている。

 それが単純に嬉しかった。

 決して不満がない訳ではないだろうに、普段からそんなことはおくびにも出さない。


「お前たち――楽しいか?」


 膝の上で楽しそうにおしゃべりをしていたアリとマリは振り返り、揃ってこう云った。


「パルムが居ればそれで良いよ」

「パルムさんが居てくれたらそれで結構です」


 それがとても自然で、だから尚更、パルムの胸に染み込んでいく。

 彼女たちの頭を撫でてやると、相貌をふにゃりと崩し、されるがままになる妖精たち。

 普段はそんなことなど露程も考えないが、今は――とても可愛く見えた。


 こう、何と云うか、もっとぎゅうっとしたい。

 そんなことをしたら怒るのだろうか。

 でもちょっとだけなら――。


「パルム、顔が変」

「何か汚らわしい気配がします」

「悟られた!? ――否、ちょっと身体を触ろうかなと思っただけ、只それだけだよ!」


 パルムの言葉に彼女たちは膝の上から飛び退いた。

 あれ? 今、俺おかしなこと云ったかな。

 マリが云う。


「パルムさん、私たちを手籠めにするつもりですか。手籠めて散々弄んだ挙げ句に捨てる気ですね。私たちは結局束の間のしがない遊びでしかなかったんですね」

「お前が今どんな小説を読んでいるのか何となく判ったが、それは違うとだけ云っておく。ちなみにそれは最近出版された【王宮と姫――弄ばれた悲劇――】だろう」

「どうしてパルムさんが内容を識っているのか、今此処ではっきり云って下さい」

「ど壺に嵌った!?」

「パルムさんには絶望を通り越して破滅を望みます」

「そこまでか! 否、本当はぎゅっとしようと思っただけだ。本当、それだけ」


 半開きにした目でパルムを見るアリとマリ。

 アリが云う。


「パルム。嘘を吐くならもっとましなこと云おうよ。ほら、私は下品で下劣な劣情を抱く卑しい卑しい心を持った獣以下の塵芥ごみ虫です、とか」

「どうして俺が自分をそこまで貶めなければいけないんだよ!」

「「それは本当のことだし(でしょう)」」

「嘘でも云いから嘘だと云ってくれ!」


 暫くして。

 机を挟んで椅子に座ったパルムとフェアリーズだった。

 パルムはまず妖精犬について教えて欲しいと云った。


 どうして妖精犬が人の多い場所に居るのか。

 妖精の番犬がどうしてエリー――人に飼われているか。

 どうして妖精の森に帰らないのか。

 ――と思っていたことを話した。


 アリが両手を頭の後ろで組んで云う。


「大体、妖精が妖精犬のことを詳しく識っている訳ではないの」

「......そうなのか?」

「妖精犬は――【危険の匂い】で生まれる生き物だから」


 危険の匂い?

 何だそれは。


「妖精犬はだから、妖精の森だけで生まれる生き物ではないってこと。たまたま妖精種族が棲む森に多く生息しているってだけで、だから、多分、何処でも生まれるし、何処でも生きていける。そういう種族なの」


 マリが付け加えるように云う。


「妖精犬が其処に居るのは其処が危険であるからです。彼らは危険の匂いを察し、護る為に生まれる。そういうものなのです。

 ――妖精種族は以前から大勢の何かから危険に晒されてきましたから、彼らが妖精の森の番犬、妖精種族の番犬と思われても仕方のないことなのですよ。確かに彼ら――妖精犬は多くのものから私たちを護ってくれましたから」


 初めて識った事実に驚きを隠せず、パルムは口を半開きにして固まった。

 妖精犬について少しだけ判った気がした。


 あの刻――エリーの家で執拗なまでに感じた視線の正体はこれだったのだ。

 パトラと呼ばれている妖精犬はパルムが危険かどうかを判断しようとしていたのだろう。

 だが――。


「急に大きくなったのはどういう訳があるんだ?」

「多分ですが――危険が迫っている、と云うことなのかもしれないですね。妖精犬が成長する理由としてはそれ位しか考えられません」

「単純に太ったとかじゃない?」

「アリは黙っていてくれ」

「酷い!?」

「妖精犬は何故護るんだ? ――例えば妖精種族だ。お前たちは妖精犬と何か、良く判らないけれど餌とかあげているのか? それとも毛繕いでもしてやるとか」


 マリは首を振った。


「特に何もしませんよ。私たちの森にも妖精犬は居ましたけれど、彼らが何かを求めたことは一度もありませんでしたね。何を食べているのかも良く判りませんでした。何時の間にか増えていたり減っていたりです」


 益々、訳が分からなくなってくる。

 それだと妖精犬は何の為に生まれ、居なくなるのか、見当がつかない。

 無償行為と云うのか。

 何も求めない――本当に?


「妖精犬は喋ったりするのか?」

「会話はありません。でも、何となく判るんです」

「判る?」

「目――かどうか判りませんが、何か見られている感覚があって、その内、ふと判る。夜遅くまで森の外で遊んでいると、いつの間にか妖精犬が傍に居て、帰れとか、そんな風に云われているような気がする。

 そうして帰ると、次の日、その場所で野犬が出たとか云われるんです。アリなんてしょっちゅう妖精犬の背中に乗って森に帰ってきていましたよ」

「お前......」

「えへへ。昔のことよ」


 アリは恥ずかしそうにそっぽを向いた。


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