第六話:神の名の引き金
砂嵐の街に、新しい“噂”が流れていた。
武装した宗教組織。
名を――“聖火教団”。
彼らは救済を謳い、信者を集め、そして武装する。
逆らう者は“浄化”される。
その中心にいるのが――教祖、“アベル”。
そして数名の幹部。
全員が戦闘経験者。
ただの宗教ではない。
軍隊に近い。
「で、その神様を撃てってわけね」
マリー・ブラッドが資料を閉じる。
古びたホテルの一室。
テーブルの上には、簡素な端末。
仕事を見つけてきたハンター・マイケルは短く答える。
「幹部ごとだ」
「派手ね」
「静かにやる」
マリーは笑う。
「やりがいのある仕事ね」
否定は、しなかった。
夜。
教団の拠点は、廃工場を改造した要塞だった。
外周には見張り。
屋上には狙撃手。
内部には武装信者。
完全な戦闘区域。
「正面は無理」
マリーが低く言う。
「裏から入る」
マイケルが即答する。
二人は影のように動く。
鉄柵を越え、死角を抜ける。
呼吸すら、音にならない。
最初の見張りが倒れる。
音は、ない。
内部。
祈りの声が響く。
狂気じみた合唱。
同じ言葉を、同じリズムで繰り返す。
「……気持ち悪いわね」
「集中しろ」
廊下を進む。
角を曲がった瞬間――
銃口。
撃発。
火花。
「っ!」
マリーが身をひねる。
弾丸が壁を抉る。
「バレた!」
「予定通りだ」
マイケルが撃ち返す。
正確な二発。
敵が崩れる。
だが――
遅い。
警報が鳴り響く。
一斉に、扉が開く。
武装した信者たちが雪崩れ込む。
「来るわよ!」
「数が多い」
「いつも通りでしょ!」
戦闘開始。
マリーは前へ出る。
ナイフが閃く。
距離を詰める。
喉を裂く。
一人、二人、三人。
だが止まらない。
マイケルは後方から制圧する。
正確な射撃。
無駄のないリロード。
だが――
「装備が違う!」
敵は防弾装備を着ている。
「頭を狙え」
「言われなくても!」
マリーが壁を蹴る。
空中で回転。
ナイフを投げる。
ヘッドショット。
崩れる。
だが、その隙に――
背後。
「――!」
マリーの死角。
引き金が引かれる。
その瞬間。
銃声。
敵が倒れる。
マイケルの一発。
「借りね」
「覚えておけよ」
突破。
奥へ進む。
祈りの声が、さらに大きくなる。
扉の前。
巨大な鉄扉。
「ここね」
「教祖だ」
マリーが笑う。
「神様に会いに行きましょ」
蹴り。
扉が開く。
広いホール。
中央に、男が立っている。
白い衣。
無数の武装信者を従えて。
教祖――アベル。
その目は、異様に静かだった。
「ようこそ」
教祖アベルは言う。
「人は、選ばれなければ価値がない」
「だから私は、選ぶ側になった」
銃声で返答。
マイケルが撃つ。
だが――
弾が逸れる。
信者が、盾になる。
「……狂ってる」
「信仰だ」
アベルが微笑む。
「彼らは救われる」
マリーが踏み込む。
「じゃあ、先に行かせてあげる」
幹部が前に出る。
重装備。
近接武器。
激突。
幹部は強い。
動きに無駄がない。
戦場を知っている。
マリーと互角。
「いいじゃない!」
刃と刃がぶつかる。
火花。
蹴り。
反撃。
一瞬の隙。
マリーの刃が、喉を裂く。
一人、撃破。
マイケルはアベルを狙う。
信者が自分から銃口に入る
撃とうとした瞬間、
一人の信者が、自分から銃口の前に立った。
——迷いは、なかった。
マイケルはさらにアベルを狙う。
だが、遮られる。
信者たちが、壁になる。
「どけ」
撃つ。
倒れる。
それでも前に出てくる。
まるで――命令ではなく、“意思”で。
「……厄介だ」
そのとき。
マリーが叫ぶ。
「マイケル!」
視線。
アベルが、何かを操作する。
床が震える。
「またかよ……!」
爆薬。
施設ごと吹き飛ばすつもりだ。
「時間がない!」
「同時にやる!」
マリーが走る。
マイケルも動く。
左右から挟む。
アベルが笑う。
「神のもとへ」
その言葉と同時に――
引き金。
ナイフ。
同時。
弾丸が胸を貫き、刃が心臓に届く。
アベルの目が、わずかに揺れる。
「……なぜだ」
マリーが答える。
「神様より、速いからよ」
崩れる。
教祖、死亡。
だが、終わらない。
爆発まで、残り数秒。
「走れ!」
二人は全速力で脱出する。
背後で――
爆発。
炎。
崩壊。
夜空が赤く染まる。
外。
砂の中に転がる二人。
しばらく、何も言わない。
やがて。
マリーが笑う。
「派手になったわね」
「予想通りだ」
マイケルは立ち上がる。
端末を見る。
一瞬、沈黙。
「どうしたの?」
「……依頼完了」
マリーも立ち上がる。
「で、次は?」
そのとき。
端末が、もう一度震える。
新規依頼。
二人は同時に見る。
そこに表示されていたのは――
ターゲット:未確認組織
報酬:機密
備考:『聖火教団残存勢力』
そして、その下に。
小さく。
『観測対象:継続』
沈黙。
マリーが笑う。
「終わらないわね」
マイケルは銃を確認する。
「ああ」
短く答える。
「だからいい」
風が吹く。
炎の残り香が、夜に溶ける。
戦いは終わった。
だが――
“次”は、すでに始まっている。




