第六話:灰になる聖火
炎は、まだ消えていなかった。
教祖アベルは死んだ。
本部も崩壊した。
だが――“聖火教団”は終わっていない。
各地に散らばった支部。
武装した信者。
そして、“次の指導者候補”。
「完全に潰さないと、また同じことになる」
マリー・ブラッドが言う。
ハンター・マイケルは、端末のデータを見ていた。
「ネットワーク型だ」
「中枢が一つじゃない」
「だから残る」
「じゃあ?」
「全部潰す」
即答だった。
マリーが笑う。
「いいわね。それ」
作戦は単純だった。
だが――規模は大きい。
各支部の位置。
資金ルート。
通信経路。
すべてを同時に叩く。
「時間差を作ると逃げる」
「同時にやるしかない」
「二人で?」
「できる範囲で削る」
マリーは肩をすくめる。
「相変わらず無茶ね」
「無理じゃない」
最初の標的。
地下倉庫。
武器と人員の中継拠点。
侵入は一瞬だった。
「静かにいくわよ」
「任せる」
影が動く。
ナイフ。
喉。
血。
音は、ない。
だが――
最後の一人が、引き金を引いた。
銃声。
「……やっぱりこうなる」
「問題ない」
マイケルが前に出る。
制圧。
三発。
全員、沈黙。
倉庫に火がつく。
「次」
二つ目。
山中の訓練施設。
ここは違う。
完全武装。
防衛線あり。
「正面から行く?」
「いや」
マイケルは地図を指す。
「ここを落とす」
発電設備。
マリーが笑う。
「暗闇戦ね。好きよ」
爆破。
光が消える。
闇。
そして――
悲鳴。
マリーが突っ込む。
闇の中で動けるのは、彼女だけ。
刃が踊る。
混乱。
誤射。
崩壊。
マイケルは外から狙撃する。
逃げる影を、一つずつ消す。
施設は、完全に沈黙した。
三つ目。
都市部。
ここが“最後”だった。
残存幹部が集まっている。
「ここを潰せば、終わる」
マリーが銃を装填する。
「派手になるわよ」
「問題ない」
ビルへ侵入。
だが――
中は、異様に静かだった。
「……おかしい」
「罠か」
その瞬間。
全フロアのシャッターが落ちる。
閉じ込められる。
スピーカーから、声。
『よく来た』
知らない声。
だが、落ち着いている。
『我々は、終わらない』
マリーが笑う。
「言うと思った」
マイケルは周囲を確認する。
「どこだ」
『上だ』
天井が開く。
重装備の部隊が降りてくる。
最後の戦力。
「まとめて来たわね」
「都合がいい」
戦闘開始。
銃撃戦。
狭い空間。
弾丸が交差する。
マリーは距離を詰める。
近接。
破壊。
だが――
数が多い。
「キリない!」
「中央を崩す!」
マイケルが指示する。
指揮系統。
中心の男。
あれが最後の幹部。
マリーが走る。
弾を避ける。
撃たれる。
かすめる。
血。
だが止まらない。
「邪魔よ!」
蹴り。
撃ち。
突き。
幹部の目前。
男が銃を向ける。
「終わりだ」
引き金。
その瞬間――
銃声。
マイケル。
弾が男の腕を撃ち抜く。
一瞬の隙。
マリーのナイフが――
喉を裂く。
沈黙。
残りの信者たちが、動きを止める。
指揮が消えた。
統制が崩れる。
「……終わりね」
マリーが息を吐く。
マイケルが確認する。
動く敵はいない。
完全制圧。
外。
夜明け前。
静かな街。
マリーが壁にもたれる。
「これで本当に終わり?」
マイケルは端末を見る。
通信なし。
命令なし。
「……ああ」
短い返答。
マリーは空を見る。
「宗教ってさ」
「結局、“信じるもの”があるから強いのよね」
「もうない」
「そうね」
一拍。
「全部、灰になった」
だが――
遠く。
誰もいないはずの通信回線。
わずかなノイズ。
『……ログ、取得』
小さな声。
誰にも聞こえない。
『戦闘データ、更新』
『対象:H.M / M.B』(ハンター・マイケル / マリー・ブラッド)
風が吹く。
マリーが歩き出す。
「次、どこ行く?」
マイケルも歩き出す。
「どこでもいい」
聖火教団は壊滅した。
完全に。
だが――
“観測”は、まだ続いている。




