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暗殺者たちの鎮魂歌(レクイエム) ―最後の依頼―  作者: レモンティー


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第四話:自由の条件

風が吹いていた。

崩壊しかけた最上階。

割れたガラスの向こうに、夜明けが広がる。

ハンター・マイケルとマリー・ブラッド。

互いに銃を構えたまま、動かない。

「……報酬が“自由”って、皮肉ね」

マリー・ブラッドが言う。

「俺たちに一番縁がない言葉だ」

ハンター・マイケルの声は静かだ。

だが――

引き金には、確かに指がかかっている。


「どうする?」

「決まってる」

短い会話。

互いに理解している。

この依頼は、これまでと違う。

“勝者が生き残る”のではない。

“勝者だけが自由になる”。

つまり――

負けた方は、ただ死ぬ。


沈黙。

風の音だけが残る。

「ねえ」

マリー・ブラッドが、わずかに銃口を下げる。

「一つだけ、いい?」

「……何だ」

「あなた、なんでこの仕事してるの?」

間。

ハンター・マイケルは、答えないかと思われた。

だが――

「選ばれたからだ」

それだけ言った。

「それだけ?」

「ああ」


マリー・ブラッドは、小さく笑う。

「つまらないわね」

「お前は?」

「私は――」

一瞬だけ、目を伏せる。

「自分で選んだのよ」

再び、沈黙。

そのとき。

二人の端末が、同時に光る。

新たなメッセージ。

『最終ルール追加』

機械的な文字。

『“相互排除”を確認後、システムを終了する』

『それまでは、何度でも再起動される』

ハンター・マイケルの目が細くなる。

「……再起動?」

マリー・ブラッドが、笑った。

「なるほどね」


「殺しても、終わらない」

「ええ。どっちかが死んでも、また始まる」

「完全に壊すしかない」

結論は、一瞬だった。

「……やる?」

「最初からそのつもりだ」


銃口が、同時に“上”へ向く。

天井。

そのさらに上。

“制御核”。

二人は同時に撃った。


弾丸が貫く。

だが――

足りない。

装甲が厚すぎる。

「チッ……!」

その瞬間。

マリー・ブラッドが走る。

崩れた床。

むき出しの配線。

そこに、まだ生きている“エネルギーライン”。

「これ、使うわよ!」

「任せた」


ハンター・マイケルが撃つ。

配線を切断。

火花が散る。

マリー・ブラッドが、それを“導く”。

ナイフを突き刺す。

電流が走る。


一瞬。

時間が止まったように見えた。


そして――

爆発。

光。

音。

衝撃。

すべてが、白に塗りつぶされる。

――静寂。

気づくと。

そこは、ただのビルだった。

崩壊は止まり。

機械の音もない。

警報もない。


「……終わった?」

マリー・ブラッドが、ゆっくりと立ち上がる。

ハンター・マイケルも、周囲を見渡す。

端末を見る。


何も来ていない。

「……依頼がない」

「初めてね」

長い沈黙。

マリー・ブラッドが、銃を構える。

ハンター・マイケルも、構える。


だが――

撃たない。

「ねえ」

「何だ」

「これで終わりなら――」

彼女は、銃を下ろした。

「もう、やる理由ないんじゃない?」


ハンター・マイケルは、しばらく動かなかった。

やがて――

ゆっくりと銃を下げる。

「……ああ」

風が吹く。

夜明けの光が、二人を照らす。


遠くで、ヘリの音がする。

だが、もう関係ない。


“業火のカルテット”。

それは、選ばれた者たちの戦場。

終わらないはずの、殺し合い。


だが――

それは、終わった。

「これから、どうする?」

マリー・ブラッドが聞く。

ハンター・マイケルは、少しだけ考える。

「さあな」

それが、本音だった。


マリー・ブラッドが言う。

「ねえ」

ハンター・マイケルは、わずかに視線だけを向ける。

「何だ」

マリー・ブラッドは、少しだけ考えるように間を置いてから、笑った。

「パーティ、組まない?」

風が吹く。

その言葉は、あまりにも軽く、この場には、あまりにも似合わなかった。

「……は?」

ハンター・マイケルの眉が、わずかに動く。

「だってさ」

マリー・ブラッドは肩をすくめる。

「依頼はもうない。ルールもない。敵もいない」

一歩、近づく。

「でも、“何もない”ってさ――結構めんどくさいのよ」

ハンター・マイケルは答えない。

マリー・ブラッドは続ける。

「一人で生きるのもいいけど、どうせなら効率よくいきたいじゃない?」

「情報共有、戦闘分担、背中のカバー」

「あなた、そういうの得意でしょ?」

沈黙。

「……信用する理由がない」

短い返答。

だがマリーは、気にした様子もなく笑う。

「別にいいじゃない。信用なんてあとでで」

一瞬だけ、真顔になる。

「でも、“利用価値”なら――お互いにあるでしょ?」

風が、ガラスの破片を転がす。

ハンター・マイケルは、ゆっくりとマリーを見る。

撃つこともできた。

ここで終わらせることもできた。

だが――

銃を、下ろす。

「……期間限定だ」

マリーの口元が、楽しそうに歪む。

「いいわよ。それで」

「裏切れば、撃つ」

「お互い様でしょ?」

一拍。

そして――

ハンター・マイケルが、小さく息を吐く。

「……いい」

それだけだった。

だが、それで十分だった。

マリー・ブラッドは、くるりと背を向けて歩き出す。

「じゃ、決まりね。相棒」

その言葉に、ハンター・マイケルは何も返さない。

ただ――

わずかに、歩く速度を合わせた。

崩れたビルの出口へ。

光の方へ。

二人は歩き出す。

崩れたビルを抜けて。

外の世界へ。

もう、依頼はない。

もう、ルールもない。

あるのは――

ただの、選択だけ。

自由。

それが、どれほど難しいものか。

二人は、まだ知らない。

だがそれでも――

歩き出した。

それで、十分だった。


“業火のカルテット”は終わった。

だが――

二人の“次のゲーム”は、今、始まったばかりだった。

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