第三話:選ばれていない者
――“第三の銃声”。
乾いた音が、最上階の空気を裂いた。
弾丸は、二人の間を通り抜け――
壁に突き刺さる。
「……チッ」
ハンター・マイケルが即座に体を捻る。
マリー・ブラッドも同時に床へ転がった。
遅れて、ガラスが弾け飛ぶ。
「今の……」
「俺たち以外だ」
答えは一瞬で出た。
“参加者は6名”。
そのはずだった。
だが――
「数が合わない」
ハンター・マイケルは低く呟く。
マリー・ブラッドの視線が、ゆっくりと部屋の奥へ向く。
そこには、大きなガラスの向こうに――
“もう一つの部屋”があった。
観察室。
そこには、椅子に座る男がいた。
スーツ。
無表情。
その手には、リモートトリガー。
「……運営か」
ハンター・マイケルが言う。
男は、ゆっくりと立ち上がった。
『正解です』
スピーカーではない。
直接、声が届く。
防音ガラス越しにも関わらず。
「なるほど……最初から“そういうゲーム”ってわけね」
マリー・ブラッドが笑う。
『“業火のカルテット”は、選別のためのシステムです』
男の声は、感情がない。
『優秀な者だけを残す』
『不要な者は排除する』
『そして最後に――』
一拍。
『“管理可能な一人”を選ぶ』
沈黙。
「……つまらないわね」
マリー・ブラッドが呟く。
「殺し合いの方が、まだマシだった」
ハンター・マイケルは何も言わない。
ただ、銃口をゆっくりと“ガラス”へ向ける。
『無駄です』
男が言う。
『そのガラスは――』
発砲。
次の瞬間。
ガラスにヒビが走る。
「十分だ」
ハンター・マイケルはもう一度引き金を引いた。
同時に。
マリー・ブラッドが動く。
床を蹴る。
天井の照明を撃つ。
視界が一瞬、闇に沈む。
その隙に――
「開けなさいよ」
蹴り。
ヒビの入ったガラスに、衝撃が重なる。
三発目。
四発目。
――砕けた。
警報が鳴り響く。
赤い光が回転する。
だが、もう遅い。
二人は同時に、観察室へ踏み込んだ。
男は、逃げない。
ただ、静かに端末を操作する。
『予想通りです』
『だからこそ――次の段階へ移行します』
床が揺れる。
壁が動く。
部屋の構造が、変わる。
「……何を」
マリー・ブラッドの言葉が途切れる。
壁の向こうから――
“複数の足音”。
現れたのは――
同じ顔。
同じ装備。
同じ動き。
「……は?」
マリー・ブラッドの声が、わずかに揺れる。
ハンター・マイケルの目が細くなる。
「クローンか」
『バックアップです』
男が答える。
『“業火のカルテット”の戦闘データは、すべて保存されている』
『最適化された“再現体”として、何度でも投入可能です』
つまり――
「終わらないってこと?」
『その通りです』
一斉に動く。
“複製された殺し屋”たちが、二人へ襲いかかる。
動きは完璧。
無駄がない。
ためらいもない。
「……面倒ね」
マリー・ブラッドがナイフを構える。
「だが、同じ動きなら――」
ハンター・マイケルは、一歩踏み込む。
「読みやすい」
戦闘開始。
同じ技。
同じタイミング。
だからこそ――
“ズレ”が致命になる。
マリー・ブラッドは、わざと動きを崩す。
リズムを変える。
予測を外す。
ハンター・マイケルは逆に、あえて“同じ動き”を繰り返す。
フェイント。
パターンの上書き。
次々と崩れる複製体。
だが数が多い。
キリがない。
「これ……」
「本体を叩くしかない」
視線が、同時に“男”へ向く。
その瞬間。
男の表情が、わずかに変わった。
『――興味深い』
ハンター・マイケルが撃つ。
マリー・ブラッドが詰める。
同時攻撃。
だが――
弾は止まる。
ナイフも止まる。
「……っ!?」
見えない“壁”。
空間が歪んでいる。
『ここは、私の制御下です』
男が言う。
『あなたたちは、まだ“駒”に過ぎない』
沈黙。
一瞬の停止。
そして――
マリー・ブラッドが、ふっと笑った。
「ねえ」
ハンター・マイケルにだけ聞こえる声。
「これ、壊すわよ」
「最初からそのつもりだ」
短い会話。
次の瞬間。
二人は同時に、“同じ方向”へ撃った。
男ではない。
壁でもない。
――“床”。
爆発。
トーマス・ブレイクの仕掛けていた残骸。
それを利用した、強制破壊。
床が抜ける。
空間が崩れる。
制御が乱れる。
“見えない壁”が消える。
一瞬だけ。
ハンター・マイケルが撃つ。
マリー・ブラッドが投げる。
弾丸とナイフ。
一直線。
男の胸に――
突き刺さる。
静寂。
複製体が止まる。
一体、また一体と崩れ落ちる。
警報が止む。
光が消える。
男は、倒れながら言った。
『……これで終わりだと、思うな』
血が床に広がる。
『“業火のカルテット”は――システムだ』
『一つ壊しても、また――』
言葉が途切れる。
完全な沈黙。
二人だけが残る。
「……で?」
マリー・ブラッドが銃を向ける。
「続き、やる?」
ハンター・マイケルは、少しだけ考える。
そして――
銃を下げた。
「今回は終わりだ」
「へえ?」
「依頼はもうない」
端末を見る。
確かに、“次の依頼”は来ていない。
マリー・ブラッドは、少しだけ笑った。
「じゃあ――一旦休戦?」
「ああ」
崩れかけた最上階。
夜明けの光が差し込む。
だが――
その瞬間。
ハンター・マイケルの端末が、震えた。
“新規依頼”
表示された名前。
それは――
「……は?」
マリー・ブラッドが覗き込む。
そして、笑う。
ターゲット:
“ハンター・マイケル”
“マリー・ブラッド”
報酬:
“自由”
沈黙。
そして――
二人は同時に、銃を構えた。
今度こそ。
本当の意味での――
“最後のゲーム”が始まる。




