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暗殺者たちの鎮魂歌(レクイエム) ―最後の依頼―  作者: レモンティー


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第十五話:観測者

地下を抜けたとき、雨は止んでいた。

濡れた街が、鈍く光っている。

静かすぎる夜だった。

「……終わった、んだよな」

ユウがぽつりと呟く。

ハンター・マイケルが肩を回す。

「少なくとも、さっきの連中はな」

マリー・ブラッドは答えない。

ただ、前を歩く。

迷いのない足取りで。

「どこ行く?」

ユウが聞く。

「依頼人のところよ」

短い返答。

ユウが足を止める。

「……依頼人?」

マリー・ブラッドは振り返る。

その目は、どこか冷たかった。

「あなたを依頼人のところへ連れて行くのが仕事よ」

沈黙。

空気が変わる。

「どういう意味?」

マリー・ブラッドは数秒、黙る。

そして言う。

「あなたは“偶然”じゃない」

ユウの喉が鳴る。

「最初から、対象だった」

ハンター・マイケルが横から口を挟む。

「保護対象、ってやつだ」

「保護……?」

ユウの表情が歪む。

「俺、そんな――」

「自覚はないでしょうね」

マリー・ブラッドは歩き出す。

「でも、見てた人がいる」

「誰が?」

「依頼人」

それ以上は言わない。

三人は無言で歩く。


街の外れ。

使われていないビル。

灯りはない。

だが――

「ここ」

マリー・ブラッドが立ち止まる。

扉に触れる。

――ロック解除音。

「……え」

ユウが驚く。

「電気、生きてるの?」

ハンター・マイケルが笑う。

「こういう場所ほどな」

中に入る。

暗闇。

だが、奥にだけ光がある。

白い光。

無機質な。

足音が響く。

やがて、部屋に辿り着く。

そこは――

研究室のようだった。

モニター。

データ。

そして。

一人の人物。

椅子に座り、こちらを見ている。

「……来たか」

低い声。

男。

年齢は読めない。

「そいつが?」

マリー・ブラッドは頷く。

「ええ。ユウよ」

男が立ち上がる。

ゆっくりと近づく。

ユウを、観察するように。

「……なるほど」

「何が“なるほど”だよ」

ユウが思わず言い返す。

男は気にしない。

むしろ、興味深そうに微笑む。

「君、自分が何をしているか分かっているか?」

ユウは言葉に詰まる。

「未来が……見える」

「違う」

即答。

その一言が、重く落ちる。

「それは結果に過ぎない」

ユウの心臓が跳ねる。

「じゃあ……何なんだよ」

男は、少しだけ考えるように間を置いた。

そして。

「観測だ」

静かに言う。

「君は“未来を見ている”んじゃない」

一歩、近づく。

「“可能性を固定している”」

ユウの視界が揺れる。

「……は?」

マリー・ブラッドが腕を組む。

「説明してあげて」

男は頷く。

「世界には、無数の分岐がある」


モニターに映像が出る。

同じ場所。

違う動き。

違う結果。

「通常、人間はその中の一つしか認識できない」

映像が重なる。

無数に。

「だが君は違う」

男がユウを見る。

「複数の可能性を同時に“知覚”している」

ユウの呼吸が浅くなる。

「それで……未来が揺れて見える……」

「そうだ」

男は続ける。

「そして君が“選ぶ”ことで」

映像が一つに収束する。

「その可能性が確定する」

沈黙。

ユウの頭の中で、何かが繋がる。

「あのとき……」

分岐点。

地下。

「俺が選んだから……」

「現実が決まった」

男が頷く。

ハンター・マイケルが低く口笛を吹く。

「とんでもねえな」

ユウはふらつく。

壁に手をつく。

「じゃあ……俺が間違えたら……」

「世界ごと間違う」

男は平然と言う。

「だからこそ」

マリー・ブラッドが口を開く。

「あなたは“狙われた”」

ユウが顔を上げる。

「ゼロレイヤーも、それを利用しようとした」

男が補足する。

「完全な予測システムにとって、“不確定要素”は危険だからな」

「……消そうとしたってことか」

「あるいは、取り込む」

静かな声。

重い意味。

ユウは黙る。

しばらくして。

「……で」

顔を上げる。

「俺をここに連れてきた理由は?」

男は、少しだけ笑う。

「簡単だ」

視線が鋭くなる。

「君を“使う”ためだ」

空気が張り詰める。

ハンター・マイケルが眉をひそめる。

「ストレートだな」

マリー・ブラッドは何も言わない。

ただ、ユウを見る。

「拒否権は?」

ユウが聞く。

男は肩をすくめる。

「ある」

一拍。

「ただし」

わずかに間を置く。

「外に出れば、また狙われる」

静かな現実。

「今度は、もっと厄介なのが来る」

ユウは目を閉じる。

考える。

未来は見えない。

ここでは。

それでも。

「……選べってことか」

マリー・ブラッドが小さく頷く。

「いつも通りよ」

ユウは、ゆっくりと目を開ける。

その目は、もう迷っていなかった。

「分かった」

一歩、前に出る。

「条件がある」

男が興味深そうに言う。

「聞こう」

ユウは言う。

「俺が選ぶ」

その言葉に、マリー・ブラッドがわずかに笑う。

男もまた、楽しそうに頷いた。

「いいだろう」

静かに言う。

「観測者」

その呼び名が、初めて与えられた。

世界の分岐点に立つ者。

ユウは、その中心にいた。

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