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暗殺者たちの鎮魂歌(レクイエム) ―最後の依頼―  作者: レモンティー


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第十四話:名前のない敵

――発砲。

閃光が、狭い通路を白く塗り潰す。

ユウは動かない。

いや、動けないのではない。

“動かないことを選んでいる”。

迫る影。

三人。

無駄のない連携。

だが――

「遅い」

自分でも驚くほど、静かな声が出た。

引き金を引く。

――発砲。

一人、膝をつく。

だが倒れない。

次の瞬間、残り二人が左右に散る。

「学習してる……?」

ユウの目がわずかに揺れる。

そのとき。

耳元で、ノイズ。

――ザッ……

無線?

いや、違う。

直接、頭の中に流れ込む。

《対象、予測更新》

「っ……!」

ユウが顔をしかめる。

《行動分岐、再計算》

敵が、止まる。

一瞬。

そして――

“同時に”動いた。

完全に重なった動き。

まるで、一つの意思で操られているかのように。

「……そういうことか」

ユウは息を吐く。

恐怖が、すっと引いていく。

代わりに、理解が来る。

「個体じゃない」

一歩、前に出る。

弾を込め直す。

「ネットワーク……」


敵が飛び込んでくる。

ナイフ。

打撃。

同時攻撃。

ユウは半歩だけズレる。

それだけで、すべてが“外れる”。

「見えてるんじゃない」

銃口を合わせる。

「“同期してる”んだ」

――発砲。

一人、倒れる。

その瞬間。

残りの動きが、わずかに遅れる。

「やっぱり」

ユウの目が鋭くなる。

「中枢がある」

《危険度上昇》

再び、声。

今度ははっきりと。

機械的な響き。

《排除優先対象へ変更》

敵の動きが変わる。

一直線。

ユウへ。

「来いよ」

ユウは構える。

だが――

そのとき。

遠くで、爆音。

低く、重い振動。

「……マリー・ブラッド?」

場面が切り替わる。

――地下、別ルート。

マリー・ブラッドとハンター・マイケルは走っていた。

「今のは?」

ハンター・マイケルが振り返る。

「当たりを引いたみたいね」

マリー・ブラッドは短く答える。

通路の先。

開けた空間。

巨大な部屋。

無数のケーブル。

機材。

そして中央に――

“それ”はあった。

人の形をしている。

だが、人ではない。

頭部は覆われ、

全身に端子が刺さっている。

無数の線が、壁と繋がっている。

「……あれか」

ハンター・マイケルが低く言う。

マリー・ブラッドは頷く。

「“中枢”」


その瞬間。

部屋中のモニターが点灯する。

無数の視点。

地上、路地、ドローン映像――

そして。

ユウ。

戦っている姿が映る。

「ビンゴね」

マリー・ブラッドが銃を構える。

スピーカーから、声。

《侵入者確認》

《排除プロトコル起動》

ハンター・マイケルが笑う。

「喋るのかよ」

《我々は、個ではない》

声が重なる。

一つではない。

複数の声が同時に。

《統合戦術ネットワーク》

《識別名――ゼロレイヤー》

マリー・ブラッドが一歩、前に出る。

「長い名前ね」

《人類の戦闘最適化の最終形》

《恐怖、迷い、遅延を排除》

《完全なる同期》

ハンター・マイケルが吐き捨てる。

「要するに、操り人形だろ」

《否定》

《我々は“判断”である》

マリー・ブラッドの目が冷える。

「じゃあ、消えても問題ないわね」

引き金に指をかける。

《対象、脅威認定》

《全戦力――》

言い終わる前に。

――発砲。

マリー・ブラッドの弾が、中央ユニットに直撃する。

火花。

ノイズ。

だが、止まらない。

《冗長構成、維持》

「やっぱり一発じゃ無理か」

ハンター・マイケルが周囲を見る。

「どこがコアだ?」

マリー・ブラッドは一瞬、思考し――

視線を走らせる。

ケーブルの流れ。

電力の集中。

「……あそこ」

天井付近。

一箇所だけ、太い束。

「主幹ラインね」

ハンター・マイケルがニヤリと笑う。

「任せろ」

走る。

銃撃を避けながら、壁を蹴る。

跳ぶ。

《迎撃》

タレットが起動。

弾丸が飛ぶ。

ハンター・マイケルは空中で体を捻る。

被弾。

それでも止まらない。

「くらえ!」

ナイフを投げる。

ケーブルに突き刺さる。

だが――切れない。

「硬えな!」

マリー・ブラッドが即座に撃つ。

連射。

同一点。

――破断。

火花が散る。

その瞬間。

部屋中の光が揺れる。

《同期率低下》

《エラー発生》

マリー・ブラッドが叫ぶ。

「もう一本!」

ハンター・マイケルが笑う。

「最初から全力で行けってことかよ!」

再び跳ぶ。

今度は、銃を構える。

――連射。

ケーブルが、断ち切られる。

完全な断裂。

その瞬間。

“それ”が、止まった。

《……》

沈黙。

モニターが一斉に消える。

そして。

中央の人型が、崩れ落ちた。

重い音。


静寂。

ハンター・マイケルが着地する。

息を整える。

「終わり……か?」

マリー・ブラッドは、動かないそれを見つめる。

数秒。

そして。

「ええ」

銃を下ろす。

「これで、“敵”は終わり」

場面が戻る。

――分岐点。

ユウの前の敵が、突然止まる。

動かない。

まるで糸が切れたように。

「……え?」

一人、崩れる。

二人、三人。

すべてが、倒れる。

完全な停止。

ユウはしばらく動けなかった。

やがて、ゆっくりと息を吐く。

「……終わった?」

遠くから、足音。

マリー・ブラッドとハンター・マイケルが戻ってくる。

「無事ね」

マリー・ブラッドが言う。

ユウは苦笑する。

「ギリギリ」

ハンター・マイケルが周囲を見る。

「全部、止まってるな」

マリー・ブラッドは頷く。

「中枢を壊した」

ユウが目を見開く。

「じゃあ、あいつら……」

「ただの“空”よ」

静かに言う。

「もう、動かない」

沈黙。

長い、長い沈黙。

やがて。

ユウがぽつりと呟く。

「……なんだったんだ、これ」

マリー・ブラッドは少しだけ考えてから答える。

「名前なんて、どうでもいい」

振り返る。

暗い通路の先へ。

「消えたものに、意味は残らないから」

ハンター・マイケルが肩をすくめる。

「虚しい話だな」

マリー・ブラッドは歩き出す。

「いいえ」

小さく言う。

「残るものもあるわ」

ユウが顔を上げる。

「何が?」

マリー・ブラッドは一瞬だけ、足を止める。

そして。

「選んだこと」

それだけ言って、再び歩き出した。

地下の闇は、静かだった。

もう――

追ってくるものは、何もない。

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