第十三話:交差点ゼロ
――発砲。
閃光が、闇を裂いた。
一人、倒れる。
だが、終わらない。
「二時方向!」
ハンター・マイケルが叫ぶ。
側面から影が滑り込む。
統制された動き。
無駄がない。
「速い……!」
ユウが息を呑む。
マリー・ブラッドは後退しながら撃つ。
――発砲、発砲。
弾は当たる。
だが。
「止まらない……!」
「防護装備だ、急所を狙え!」
ハンター・マイケルが低く言う。
次の瞬間、敵が壁を蹴って跳ぶ。
あり得ない角度。
「っ!」
マリー・ブラッドが身をひねる。
ナイフが頬をかすめる。
血が一筋、流れる。
「人間離れしてるわね」
「改造か、訓練か……どっちにしろ厄介だ」
ハンター・マイケルが距離を詰める。
近接戦。
銃床で殴打。
一人の顎を砕く。
倒れない。
だが――動きが鈍る。
「今だ!」
マリー・ブラッドが撃つ。
――沈黙。
一瞬の静寂。
だが、すぐに。
「まだ来る!」
ユウが叫ぶ。
闇の奥、さらに複数の気配。
足音が重なる。
増えている。
「数で押す気ね」
マリー・ブラッドが舌打ちする。
そのとき。
ユウが、また呟いた。
「……分岐」
「何?」
「ここ、分かれてる……けど」
通路の先。
三方向。
どれも同じように暗い。
「全部、“同時に可能”」
ユウの声が震える。
「どういうことだ」
ハンター・マイケルが問う。
「どこに行っても……結果が確定してない」
マリー・ブラッドが一瞬だけ目を細める。
「……面白いじゃない」
背後で銃声。
敵がさらに近づく。
「時間がない!」
ハンター・マイケルが叫ぶ。
マリー・ブラッドは決断する。
「分かれるわよ」
「は!?」
ユウが振り向く。
「三方向。相手は追跡してくる」
マリー・ブラッドは冷静に言う。
「全部を追えない」
「でも、それじゃ――」
「誰かが囮になる」
沈黙。
一瞬。
重い空気。
ハンター・マイケルが笑う。
「俺が行く」
「却下」
即答。
「指揮系統が崩れる」
「ならお前が残るか?」
「それも却下」
ユウが声を上げる。
「ちょっと待ってよ!そんな――」
マリー・ブラッドがユウを見る。
その目は、真っ直ぐだった。
「あなたが決めなさい」
「……え?」
「“見えない”んでしょ?」
ユウが息を止める。
「なら、選べるはずよ」
心臓の音がうるさい。
未来が見えない。
だから怖い。
けど――
「……違う」
小さく呟く。
「見えないから、選べる」
マリー・ブラッドがわずかに笑う。
ユウは目を閉じる。
深く、息を吸う。
そして。
指をさした。
「ここ」
中央の通路。
「三人で?」
ハンター・マイケルが聞く。
ユウは首を振る。
「二人」
「誰が残る?」
ユウは目を開く。
迷いは、なかった。
「……俺が残る」
マリー・ブラッドの眉がわずかに動く。
「理由は?」
「一番、“未来が揺れてる”場所だから」
震えているはずなのに、声ははっきりしていた。
「ここにいれば、相手の計算も狂う」
ハンター・マイケルがニヤリと笑う。
「度胸あるじゃねえか」
マリー・ブラッドは数秒、ユウを見つめる。
そして、頷いた。
「いいわ」
「え……」
あまりにあっさりとした了承。
ユウが逆に戸惑う。
「止めないの?」
「止める理由がない」
マリー・ブラッドは言う。
「選んだのはあなたよ」
一歩、近づく。
「死ぬな」
それだけ。
ハンター・マイケルが肩を叩く。
「時間稼ぎでいい。無理はするな」
足音が迫る。
もう、すぐそこ。
「行くぞ!」
ハンター・マイケルとマリー・ブラッドが走り出す。
中央の通路へ。
闇に溶ける。
ユウは一人、残る。
深く息を吐く。
手が震えている。
それでも、銃を構える。
「……未来がないなら」
足音が目前。
影が揺れる。
「ここで、作る」
敵が現れる。
一人、二人、三人。
ユウは、引き金を引いた。
――発砲。
地下に、乾いた音が響く。
その瞬間。
分岐点は、
“交差点”へと変わった。




