第十二話:見えないルート
雨が、叩きつける。
アスファルトを滑る足音。
後方から迫るライト。
「右だ!」
ハンター・マイケルが叫ぶ。
マリー・ブラッドは迷わず曲がる。
狭い路地。
ゴミ箱を蹴り飛ばしながら走る。
ユウが息を切らす。
「はっ……はっ……!」
「止まるな!」
マリー・ブラッドの声は冷静だった。
後ろで、タイヤが軋む音。
車が、路地の入口で止まる。
「徒歩で来るぞ」
ハンター・マイケルが振り返る。
複数の影。
装備は――統一されている。
「軍か?」
「いいえ」
マリー・ブラッドは即答する。
「もっと厄介」
角を曲がる。
その瞬間――
上から光。
「ドローン!」
ユウが叫ぶ。
小型の機体が、三人を捉える。
赤いレーザーが揺れる。
「ちっ!」
ハンター・マイケルが銃を抜く。
――発砲。
一機、落ちる。
だが。
「まだいる!」
二機、三機。
増えていく。
「追跡特化ね」
マリー・ブラッドは舌打ちする。
「撒けない……!」
ユウが振り返る。
顔が青い。
「……見える」
突然、呟いた。
「何が?」
「このままじゃ――袋小路」
マリー・ブラッドの足が止まる寸前で止まる。
「どっち?」
ユウは目を閉じる。
一瞬。
「左……いや、違う……」
苦しそうに首を振る。
「未来が、揺れてる……!」
ハンター・マイケルが叫ぶ。
「早くしろ!」
後ろの気配が近い。
足音。
無線。
完全に包囲網が形成されつつある。
ユウが、目を見開いた。
「地下!」
「は?」
「下に行けば、見えないルートがある!」
マリー・ブラッドは一瞬だけ考え――
決断した。
「行くわよ!」
左手にあった、古い鉄扉。
蹴り破る。
中は――暗い階段。
湿った空気。
「行け!」
三人は飛び込む。
直後。
上を、光が通り過ぎる。
ドローンの視線が、逸れる。
「……追ってきてない?」
ユウが息を整えながら言う。
ハンター・マイケルが耳を澄ます。
「いや――」
遠くから、音。
「来るな。だが、時間差で来る」
マリー・ブラッドは階段を降りる。
地下。
古い配管。
使われていない通路。
「こういう場所……」
ユウが呟く。
「“見えにくい”」
「どういう意味?」
「未来が、はっきりしない」
マリー・ブラッドは小さく笑う。
「いいじゃない」
振り返る。
「相手にも見えないってことでしょ」
ユウが息を飲む。
「……そうか」
ハンター・マイケルが前に出る。
「なら使えるな」
通路は、分岐している。
いくつも。
迷路のように。
「どっちだ?」
ユウは目を閉じる。
だが――すぐに開けた。
「分からない」
「十分よ」
マリー・ブラッドは迷わず進む。
「見えないなら、“自由”ってこと」
その言葉に、ユウの表情が変わる。
今までにない感覚。
「……未来が、ない」
ぽつりと呟く。
ハンター・マイケルが笑う。
「違うな」
肩越しに言う。
「まだ決まってないだけだ」
足音が響く。
暗い地下。
雨の音は、もう届かない。
その代わり――
背後から、わずかな気配。
「……来たな」
マリー・ブラッドが立ち止まる。
振り返る。
闇の奥。
「追ってきたか」
ハンター・マイケルが銃を構える。
ユウが息を呑む。
「ここでも……?」
マリー・ブラッドは静かに言う。
「当然でしょ」
その目は、冷たい。
「逃げ切るだけが選択じゃない」
一歩、前に出る。
「ここで“減らす”」
ハンター・マイケルが笑う。
「ようやく反撃か」
ユウが戸惑う。
「え、ちょっと――」
マリー・ブラッドは振り返らない。
「未来が見えないなら」
銃を構える。
「自分で作るだけよ」
闇の中。
気配が近づく。
足音。
無線のノイズ。
そして――
静寂。
「……来る」
ハンター・マイケルが呟く。
マリー・ブラッドが引き金に指をかける。
次の瞬間。
影が、飛び出した。
――発砲。




